始末屋 妖幻堂
「ああ、やっぱりほら、旦さんの目を盗むなんて、できっこないんだよ。あちきでも無理なのにさ」

 早々に諦めた狐姫が、あっさりと白状する。

「小太がさぁ、女子を一人、連れ込んだのさぁ」

「ああ?」

 蓮っ葉に袂をいじくりながら狐姫が言ったことに、男は思いきり片眉を上げた。

「馬鹿か。こんなところに、女ぁ連れ込むんじゃねぇよ」

「つっ連れ込んだんじゃねぇよっ!」

 真っ赤になって、小太はきゃんきゃんと吠える。

「で?」

「へ?」

 帯に挟んでいた煙管に刻み煙草を詰めながら言う男に、小太が間抜けな声を返す。
 火を付けた煙管を咥え、男は立ち上がった。
 男に近づかれ、小太が再び、ぴき、と固まる。

 威圧的でもないし、小太よりは大きいが細身で小柄な男である。
 なのに、言いようのない空気に、金縛りに遭ったように身体が動かなくなっている小太をひょいと押しのけ、男は長持の蓋を開けた。

「・・・・・・やれやれ、ホンモンかよ。・・・・・・出な」

 中で小さくなっていた少女に息をつき、男は顎をしゃくった。
 そろそろと、少女が長持から出る。

「見たとこ花街関係だな。禿(かむろ)上がりか」

 煙管を咥えたまま言う男の前に座り、少女は落ち着きなくきょろきょろと部屋を見回す。
 横に座った小太が、上目遣いで男を窺う。

「厄介なモン拾ってきたな。おい嬢ちゃん。あんたぁ、何で小太に助けを求めた」

 薄い唇から紫煙を吐き出し、男は少女に問うた。
 少女は、びくんと身体を強張らせ、こそこそと小太の背後に移動する。
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