始末屋 妖幻堂
---あんま冴に似てねぇな。歳も若ぇし。後添えか?---

 千之助の視線に気づき、里は、つ、と顔を上げた。
 そして、僅かに口角を上げる。
 その何とも言えない妖艶さに、さすがの千之助も目を見張った。

「千さんっ。ね、今日は泊まっておいきよ。何もかも盗られちまったんだろ? しばらくうちに泊まると良いよ」

 いきなり冴が、さらにぐい、と身を寄せてきた。
 お陰で妙な呪縛から解放された千之助は、ここで初めて冴に感謝した。

「ねぇお父。良いだろう?」

「ああ。都のお人に満足してもらえるほどのもてなしもできませぬが、部屋だけはいくらでもある。お好きなだけ滞在なさるがいい」

 快い長の了承を取り付け、冴は嬉しそうに千之助を見上げた。
 その目が如実に今宵のことを物語っている。

「ではお言葉に甘えて、しばし滞在させていただきます。でも何分店のこともありますので、そう長居もできませぬが」

 とりあえず、村には入ったのだ。
 根城は確保できた。
 己で言ったように、あまりのんびりはできないが、幸い根城は小菊の村の村長だ。
 そう手こずることなく小菊のこともわかるだろう。

 とりあえず、不審がられないように、今日のところは下手な話題は振らないでおこうと決め、千之助は慇懃に頭を下げた。
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