始末屋 妖幻堂
 四半時ほどしただろうか。
 不意に千之助は目を開けた。

 しばらく天井を睨み、ふぅ、と息をつくと、むくりと上体を起こす。

「・・・・・・お冴さんかい」

 千之助の声に応えるように、障子がすっと開く。
 思った通り、冴が滑り込んできた。

「鋭いねぇ。ねぇ、女子のほうから忍んで来るなんて、都じゃまずないだろう? はしたないとか、お思いかい?」

 意外なことに、少し恥じらうような素振りで、冴が言う。
 千之助が黙っているのが、いたたまれないらしい。

「あたしだってね、いつもいつもこんなこと、してるわけじゃないんだよ? 一応千さんが来てくれるのを、待ってたんだ」

「・・・・・・俺っちは、今日来たばかりだぜ? 忍んで行こうにも、お冴さんの部屋もわからねぇ」

 まるっきりそんな気なかったくせに、それどころか、冴のことなど忘れていたと言っても過言でないほどだったくせに、千之助はとりあえず話を合わす。

 が、冴は己のことを千之助が『はしたない』と見下したわけではないと解釈し、自信を持ったようだ。
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