始末屋 妖幻堂
「・・・・・・」

 確かに難解な文字が羅列してある。
 この場合の難解というのは、決して難しい漢字が使われているとか、達筆すぎるとかいう意味ではない。
 幼い子供の手習いよりも読みにくい、ミミズののたくった、という表現がこれほどしっくり来る字もそうない、というような字が書かれてあるのだ。

「・・・・・・んっと、『いまだ裏には行けず。でも例の遣り手は確認。おそらく間違いなくおさん狐と思われ、現在姐々に聞き込み中。裏の入り口は素人にはわからず。主と遣り手に選ばれし禿しか入れず』・・・・・・」

 小菊が読んだ内容に、狐姫と牙呪丸が動きを止める。

「・・・・・・ほれ。初めて呶々女の字を見た者でさえ、さらっと読めるではないか」

 さらっとでもないけど、と口を挟む間もなく、狐姫は紙を牙呪丸に叩き付けた。
 もっとも小さな紙切れなので、当たったところで何ともないが。

「とにかく、呶々女は片割れと違って、ちゃんと確実に目的を果たしていってるってことだね。全く、片割れは蟻の涙ほども役に立ちゃしないのに」

 今までの苛々を、狐姫はじくじくと嫌味を言うことで解消する。

「さぁ、では我は伯狸楼に上がろうぞ。そこに小僧もいる。遣り手がおさん狐なら、下手な遠慮もいらぬであろう。遣り手を締め上げれば良い」

 狐姫の嫌味もまるで耳に入っていないように、牙呪丸はがばっと立ち上がると、早くも出て行こうとする。
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