始末屋 妖幻堂
第八章
 皆を店に入れ、杉成が暖簾を下げた。
 背後で閉まった木戸に、男たちは顔を見合わせる。
 何となく、うそ寒い空気を感じたのかもしれない。

 小菊は一足先に、二階に避難させた。
 狐姫は座敷に上がると、さっと裾を捌いて腰を下ろした。

「で、何の用だい」

 狐姫が口を開いた。
 悠然と脇息にもたれて言う狐姫の雰囲気に、男たちは完全に呑まれ、ぽかんとしている。
 牙呪丸が、上がり框に腰をかけながら呟いた。

「阿呆面を並べておらんで、さっさと用件を言わぬか。我はすぐにでも伯狸楼に行かねばならぬのに、邪魔をしおって」

 全く空気を読まない男である。
 瞬時にして男たちが色めき立った。

「おぅ兄ちゃん! 言いたいこと言ってくれるじゃねぇか」

「伯狸楼に行きてぇだと。お前、自分が何したか、わかってねぇのか」

 口々に言いながら、牙呪丸に詰め寄る。
 それでも相変わらず牙呪丸の表情は動かない。

「我が何をしたというのだ。勝手に絡んで刃物を向けたのは、お主らであろうが。そもそも何故伯狸楼の者は、やたらと我を狙う? 大人しく小僧を返せば、それで済む話ぞ」

 牙呪丸にとっては、呶々女さえ戻ればそれで良いのだ。
 小菊のことなど頭にない。
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