執着王子と聖なる姫
俺が生まれた時、母は大泣きしたらしい。

嬉しくて泣いた父とは違う、悲しみの涙。


幼い頃の記憶として鮮明に残っているのは、俺の右目を指先で撫ぜながら母が泣いていたこと。

だから俺は、その右目を失くそうと傷付けた。これが失くなれば、母はもう泣かなくても済む。そんな単純な思いだった。

そんな俺に、父は言った。


「俺は好きだよ、マナのその瞳。ママと一緒でいいね」


あの日の傷が、未だ俺の右瞼にははっきりと刻まれている。
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