執着王子と聖なる姫
「メーシーかてそう思うやろ?」
「ん?」
「デザイン描けたら、自分のやつマリちゃんに着せたいやろ?」
「まぁ…そうだね。俺が麻理子の髪や顔をいじり始めたのも、そもそもそれが始まりだし」
「ほらな?意地張ってんと素直にそうしたええねん」
「いや、意地は張ってませんけど…」

別に意地を張っているつもりはないけれど、少し抵抗はある。

何せセナの服は、ハルさんとケイさんの趣味で揃えられているのだ。そこに俺が割り込んでも良いものだろうか…とは思う。

意地ではなく遠慮と言うやつだ。

「前にも言いましたけど、俺の趣味はケイさん達の真逆ですよ?」
「そんなん気にすんなってー。セナも愛斗がデザインした服の方がええよな?」
「はい。セナもマナの服が着たいです」

その一言で「それじゃあ…」と承諾してしまうのだから、遠慮と言うほど立派なものでは無かったかもしれない。何だか負けてしまった気がしないでもないけれど、ここで下手に足掻くと底意地の悪い父に玩ばれそうなのでやめておく。

「秋物ですか?」
「せやでー。夏休みももう終わりやからなー」

そう言えばそうか。と、残り日数があと僅かだということを思い出す。ふと寂しげに表情を曇らせるセナの想いは、俺と同じ。そう確信して、再びむぎゅっと頬を抓んだ。


「そんな顔すんな。夏休みが終わるまでには何とかしてやるよ」


察しの良い父はそれでわかったらしく、にっこりと笑って頷いていた。言われた本人とケイさんは不思議そうに首を傾げていたけれど、それはこのまま放っておくことにする。

認めるのも、言葉にするのも、なかなか勇気が必要なのだ。さすがに一気には無理だ。と、自分への言い訳にした。
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