執着王子と聖なる姫
「余計なことすんな」
「ん?何のことだろなー」
「恍けても無駄。俺はこんな風に躾けてない」

ふんっと鼻を鳴らし、抗議する。せっかく徐々にではあるが俺色に染めているというのに、邪魔をされては堪らない。

しかもこんな嫁バカに洗脳されるなど、言語道断だ。

「何言われたか知んねーけど、俺とメーシーの好みは違うからな」
「違うんですか?じゃあ誰と同じですか?」
「誰とも同じじゃない。俺は俺」
「マナは難しいです」
「嫌なら止めるか?俺は別に構わねーけど」
「嫌です!もうしません。ごめんなさい」

なら許してやる。と頭を撫で、ふと視線に気付く。しまった…と息を呑めど、もう既に会話は終わってしまった後だ。取り繕いようが無い。

「愛斗ってさぁ…」
「言うな、恵介。俺にもわかってる」
「ホントそっくりだよね」
「メーシー、頼むからもうそれ以上ツッコまんといてくれ」

驚くケイさんとニヤニヤと笑う父に挟まれ、どこかいたたまれないと言った感じのハルさん。三者三様だけれど、誰も俺を責める素振りは見せなかった。それどころか、挟まれているハルさんが責められているような気がしないでもない。

「愛斗、ほどほどに…な?それ、俺の娘やから」
「はぁ…すみません」
「どうして謝るんですか?」
「いや、何か…何となく」

そう。何となくだ。

責められているわけではないけれど、何だかそんな微妙な空気ではある。読めないセナには、到底わかり得ない話だと思うけれど。

「はる、マナはどうして謝ったんですか?」
「ん?後ろめたいからちゃうか?」
「後ろめたい?何がですか?」
「そりゃセナちゃんとのことじゃない?」

ニヤリと笑う父が、そっとセナの頭を撫でる。反射的に払い除けたものの、これはマズイ。厄介な人物が首を突っ込んで来た。

ここは早々に立ち去るに限る。と、デザイン画の隅に数字を並べた。

「ケイさん、何かあったら電話してください。セナ、帰るぞ」
「待ってください。まだ話が終わってません」
「待てません」
「待ってください!」

動いてなるものか!と踏ん張るセナの腕を引いて引き寄せる。頑として動こうとしないセナは、不満げにぶぅっと頬を膨らませている。こうなると頑固だ。
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