執着王子と聖なる姫
初めの頃はこれで折れたりもしたのだけれど、今は俺も折れる気が無い。扱い方さえ覚えてしまえば、こうゆう女は従順に動くのだ。

「じゃ、お前はそこに居れば?」
「え?」
「俺と一緒に帰るより、その話の方が大事なんだろ?だったらそこで喋ってろよ」
「そうじゃありません」
「さぁ、どうだか。とにかく俺は帰るからな」
「待ってください!セナも帰ります!」
「だったら初めからそう言え?」
「うっ…ごめんなさい」

そんな俺達のやり取りを見ながら、大人三人が三者三様のため息を吐く。それを知らぬフリで背に受けながら、情けなく眉尻を下げるセナの頬をぷにっと抓んだ。

「アイス食う?そこの角に店があった。食うなら買ってやる」
「食べます!マナ、ありがとう!」
「ん。お礼は買ってからな。じゃ、俺達帰りますんで」

要は「飴と鞭」なのだ。

甘いばかりだと、そのうち自分が従順にならなければならなくなる。それは俺には耐えられそうもない。厳しく育てることも大切だ。

にっこりと笑顔を作って振り向くと、何か言いたげなハルさんと目が合った。スッと視線を逸らすと、何を思ったのかセナが俺を庇うように前に立つ。しかも、両手を広げて。

「マナをいじめたらセナが許しません!そんなことしたら、さっきのモデルさんとのことちーちゃんに言い付けてやりますから!」

その言葉に、口を開きかけていたハルさんがあんぐりと口を開けた。それを見て、父とケイさんが大きく噴き出す。

「あははっ。こりゃ参ったね。王子の負けだ」
「ちーちゃんの名前出されたら、晴人には手も足も出んわなー」

ガックリと項垂れたハルさんは、すっかり意気消沈していて。申し訳ないとは思うけれど、ここで引いてもらわなければ後々面倒なことになるのは目に見えている。

「行くぞ?」
「はい!では、皆さんさようなら」
「失礼しまーす」

扉を押し開け、大きく手を振るセナを連れ出す。来た時と同じように、爽やかな風が頬を撫ぜた。清々しい気分、とは言い難いけれど、そんなに悪くも無い。

「セナ、帰ったら話があるから」

手を引き、ゆっくりと階段を下りる。照りつける太陽が、じとりと汗を滲ませた。
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