執着王子と聖なる姫
嫌な夢を見た。

だからと言って、一日の予定が白紙にされるわけでもなく。起き上がって汗でベタリと体に纏わりつくTシャツを脱ぎ捨てると、カーテンをほんの少しだけ開けて窓の外を見遣る。

外はまだ薄暗い。

都心からは少し離れた場所にあるだろうこの家は、「晴達の家の近くだから!」という理由で母が選んだ家だそうだ。それを二つ返事で購入してしまう父もどうかと思うのだけれど、そこまであの一家に拘る理由もわからない。

まぁ、友情だか何だか知らないけれど、父が良いならそれで良いのだろう。購入したのは父なのだから。と、冷めた息子は思う。

「う…ん。まなぁ?」

ネイビーブルーのスリップ姿の妹が、間抜けな声で俺を呼ぶ。そっと頭を撫でると、開きかけた瞳がとろんと閉じられた。

「おやすみ」と言う時は、ロールカーテン一枚で隔てられた向こう側の、俺のベッドと頭合わせに置いてある自分のベッドに居るのだ。けれど、目が覚めればいつだって俺のベッドの中に居る。


可愛い奴だと思う。16歳にもなれば、彼氏の一人や二人いてもおかしくはない。実際、俺もその年には彼女がいた。けれど妹は、俺とは正反対に純真で。

「マナ以上の男じゃないとアタシには相応しくないわ!」

などと言ってくれるものだから、可愛くてしかたがない。


そんな妹を腕に抱き直し、再び眠りに就く。
俺達兄妹は、両親に甘えられない寂しさをこうして補ってきた。この年になって文句を言うつもりは無いけれど、もう少し甘えさせてくれても良かったのではないかと思う。

以前一度それを父に言ったら、「うちには大きな困ったちゃんがいるからねー」と苦笑いされたので、それ以来俺はこうして妹を抱いて眠っている。


いくつの時だっただろう。結構幼い時のような気もするのだけれど。
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