執着王子と聖なる姫
「聞いてなかった?俺の話」
「聞いて…ました」
「俺は何だって叶えてやるって言った。だから、ダメですか?はおかしいだろ?」

指先で涙を拭うと、そっと手を取られぺたりと頬に当てられた。その様子をじっと眺めながら、「そろそろチェックメイトだ」と、ふぅっと息を吐く。

「何が欲しい?言ってみ?」
「マナが…欲しいです」
「ちゃんと俺の目見て言って」

両手で頬を挟み、俯いていた顔を上げさせる。こんな時の俺は、きっとあの褐色の双眸で俺を見据えた時の父と同じ表情をしていることだろう。自覚しているのだけれど、逃がすつもりはない。たとえ意地が悪いと言われようとも、俺はその重要な言葉をセナに言わせたいのだ。


「愛斗が…欲しい」


真っ直ぐに視線を合わせて言うセナは、やはりとても素直な女で。色々と都合の良いように教えてきたけれど、根本的なことは俺の手ではどうにもならない。どこか育て方を間違った風にハルさんは言っていたけれど、十分ではないだろうか。少なくとも俺はそう思う。

「じゃ、そうしよう」
「そう?どうですか?」
「空気読めるか?」
「読めません」
「言い切るな」

コツンと額を合わせ笑うと、同じようにセナも笑う。

少々面倒くさい女だけれど、これはもう後には引けやしない。何せコイツは、両親の友人が大切に育ててきた一人娘で、俺が親友から横取りした女なのだから。


「聖奈のモノになってやる。だから、聖奈も俺のモノになれ。いいか?」


唇を重ねると、すぐに溶け合える。この二か月の間に、kissも随分と上達した。せっかく教え込んだのに、誰かに横取りされては目も当てられない。

「いいんですか?」
「何が?」
「セナはマリちゃんやレイちゃんみたいに美人じゃないですし、お勉強は出来るけどどこかがいまいちだとはるによく言われます」
「別にいいんじゃね?」
「ちーちゃんに似て頑固だし、あとは…」
「俺も逆に訊きたいね」
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