執着王子と聖なる姫
「やぁ、おはよう」


そっと扉を開いたはずなのに、そこには父の姿があって。部屋の前で待ち構えられては、さすがに逃げ場が無い。

片手には丸めたシーツとセナの服、もう片手には自分の着替え、加えて上半身は裸。

この姿で言い訳が叶うほど、うちの父は鈍感ではない。寧ろその逆だ。

「へぇ…」
「何だよ」
「女にしちゃったんだ」

ニヤリ、と口角を上げた父の表情に、鈍い頭痛を覚える。どうして我が家は、揃いも揃って面倒な奴の集まりなのだろう。

セナからすれば、俺もそこに含まれるのだろうけれど。

「王子に報告しなきゃ」
「どーぞ、ご自由に。隠すつもりねーし」
「ふふっ。冗談だよ。さすがにセナちゃんが可哀相だろ」

言うと思った。と、取り敢えずその場を擦り抜ける。

「シャワー浴びてくるから、話なら後にして」

黙って頷いた父は、にっこりと笑っていた。

こんな時、考えが柔軟な父で良かったと思う。これがもしハルさんだったならば、有無も言わさず部屋に引き込まれて尋問されていたことだろう。考えただけでゾッとする。
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