執着王子と聖なる姫
「それとさ、デザインの学校行ってみる?」
「へ?」
「いや、何かケイ坊と二人して楽しそうだからさ。専門学校行ってちゃんと学んで、卒業したらうちの事務所に就職すれば良いよ」
「いや…そんなの勝手に決めていいのかよ。マリーは?」
「麻理子だって強引に俺をJAGに入れたんだ。息子のやりたいことやらせてやるんだから、文句は言わせないよ」

決定権はいつでも父にある。

普段それを誇示しない分忘れがちだけれど、いつだって最終判断を下すのは父だ。頭の中が九割以上母で構成されているこの人だから、九割以上は母の言いなりになっているけれど。

まぁ、そこは愛故だろう。

そう思わなければ、正直この人達の子供はやってられない。

「じゃ、お言葉に甘えて」
「結婚は就職してからな?」
「いや、それはまだ早いだろ」
「ダメだよ?セナちゃんの父親は、あの王子なんだから。ちゃんと責任取らないと」
「責任って…」

今の時点からそれを言われると、どうにも荷が重い。逃げるつもりは無いけれど、責任がどうのはさすがに勘弁してほしい。

「あれ?言ってなかったっけ?」
「何を?」
「王子は、結婚するまで姫に手出さなかったんだ」
「は?」
「鬼畜なりの誠意ってやつだったんだろな。そりゃもう…彼は酷かったから」

チラッと撮影をしているところを覗いただけだけれど、それは十分にわかる。あれがプライベートまで続けば、泣いた女は数知れずいたことだろう。

「難産でね、生きるか死ぬかだったんだよ、どっちも」
「そう…なんだ」
「姫がそうだからさ、セナちゃんの初めての相手は、将来の旦那様って決まってるんだ」
「それ…早く言えよ」
「言ってたら手出さなかった?」
「いや…そうゆうわけじゃ…」

知っていたから今の状態が変わるわけではないと思うけれど、やはり心構えは違ったのではないだろうか。知っていてけしかけたのか…と、大きなため息もつきたくなる。

「諦めなって。きっとセナちゃんもそのつもりだろうし」
「まぁ…いいけど」
「楽しみだなー。同居してもらお。孫はいっぱい作れよ?」
「早いよ、まだまだ先の話だろ」

あの日から、俺の将来はもう決まっていた。そう諦めれば良いだろうか。




こうして、俺の日本へ戻って来ての最初で最後の夏休みは、実に実りのあるものとなった。
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