執着王子と聖なる姫
「セナちゃん、ホントに無理させられてない?」
「え?大丈夫ですよ。何をそんなに心配してるんですか?」

その腕の歯型だよ。と言いたいところなのだけれど、何とかそれを呑み込んでメーシーは緩やかな笑みを作った。

父親であるメーシーから見ても、愛斗はどこか異常で。何とかその真髄を知ろうと陰で努力を重ねているのだけれど、我が息子ながらどうにも掴めない。

いや、「我が息子だから」と言うべきだろうか。愛斗の場合は、どこか危険な匂いがするのだ。

「危ないと思ったら、すぐに大声出すんだよ?」
「え?」
「make loveの最中でもね」

時折洩れてくる聖奈の小さな悲鳴を、メーシーは聞き逃していなかった。

まさか押し入るわけにもいかず、愛斗を諭したところで素直に聞き入れてもらえるとも思えない。メーシーとしてはこうして聖奈に注意を促すことしか出来ないのが歯痒いところだ。

「心配要りません。セナはマナが大好きです」
「うん。それはわかってるんだけどね…」

「何の話してんだ?」

降ってきた愛斗の不機嫌な声に、メーシーは「しまった…」と口を噤む。タイミングを合わせたように「ごちそうさまでした」と手を合わせた聖奈に「お粗末さまでした」と応え、言ってしまわないだろうか…とメーシーは目を細めた。

「何の話?」
「マナに大切にしてもらってるか?って話でした」
「ふぅん。で?」
「勿論してもらってますよ。ね?」
「さぁな」

どうやらそれでは納得出来ない愛斗が不機嫌に背を向けると同時に、聖奈は「OKです」と言葉には出さずにメーシーへ指で丸を作って見せた。

「帰りにセナん家寄って帰るから」
「ん?」
「ハルさんに話したいことがあるんだ」
「…そっか」

漸くその気になったのか。と、少しの寂しさを抱きながらメーシーは二人を見送った。
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