執着王子と聖なる姫
そんな時、遠慮気味にノックされた扉がそっと開いた。寝ているとわかっていてもそうするのだから、うちの父は本当に律儀な人だ。

「起きてるよ。何?」

俺の声に驚いた父が、目を瞠っている。そっと腕を引き抜いて起き上がると、申し訳なさそうに下がった眉が見えた。

ロールカーテンを指すと、そのままそっちへ促す。こんな時間に起こしに来るということは、何か話があるということだ。

しかも、妹には聞かれたくない話が。

「学校、どう?」
「ん?俺は上手くやれてる」
「そう。それは良かった」
「レイだろ?」
「あぁ、うん。レイは…何か言ってる?」
「レイに訊けば?」
「そりゃご尤もな意見なんだけどね」

チラリと向こう側に目を遣った父の言わんとすることはよくわかる。

母に似て「性格に少々難有り」の妹は、どう考えても日本人と上手くやっていけるタイプではない。俺は幸いその辺りは父に似たらしくのらりくらりと切り抜けているけれど、妹は違う。

そしてあの勝ち気娘は、それを誰にも言おうとしないのだ。そう、俺以外の誰にも。

「まぁ、メーシーの思ってる通りだよ」
「はぁ…やっぱりね」

編入して二週間、妹にはまだ一人として友達がいなかった。

向こうにいた頃もそうそう多い方ではなかったのだけれど、住んでいる期間が長かった分それなりにはいた。やはり人種の違いなのだろうか。いや、日本人が悪いわけではあるまい。見るからに日本人離れした容姿と、あの性格では無理もない。

「ママもさ、それで苦労したんだよね」
「マリーがじゃなくてメーシーがだろ?」
「ん?まぁ、そうだけど。でも、沢山傷付いたのは麻理子だよ?」

海外育ちの母が日本の学校に編入した時、相当苦労したと言っていた。

そんな母と唯一友達になったのが、フェミニストを誇る父らしい。父に言わせれば「麻理子のおかげでフェミニストになれた」らしいけれど、「麻理子のせいでならざるを得なかった」感が滲み出ている。それはもう、ありありとわかるくらいに。

そんな哀れな父は、いつだって自分の苦労話をひけらかそうとはしなかった。そうゆうところが好きだ。
< 13 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop