執着王子と聖なる姫
わざと一定の距離を開けるように歩幅を大きくし、愛斗は予定の時間よりも早く学院に到着した。

追ってくるだろうと思っていたレベッカはそうはせず、愛斗が保とうとする一定の距離から近付くことも遠ざかることもせずに後ろを着いて来た。それがまた愛斗の思考を複雑にする。


正直に言えば、愛斗はレベッカに惹かれたのだ。だけれど、それを認めてしまうわけにはいかない。何せ自分には聖奈がいるのだから。

それに、両親と愉快な…


「まーなーとー!」


自分の名を呼ぶ愉快な仲間達の一員の声に、張り詰めていた緊張の糸がプツリと切れた音がした。

この人は本当に緊張感のカケラも無い人だ。と、愛斗は密かに嘆息する。

「おはようございます、ケイさん」
「おはよ」
「どうしたんですか?監視なら間に合ってますよ」
「ちゃうでー。講師に来たんや」

ドヤ顔でそう言う恵介に、メーシーよろしく口元に手を当てた愛斗はうーんと唸った。

「とうとうハルさんに三行半を?」
「ちゃうわ!」
「じゃ、所長に?」
「あほかっ!社長に頼まれて来たんや」
「左遷ですか?ご愁傷様です」
「ちゃう言うとるやろ!この悪ガキ!」

乱暴にヘッドロックをかけられ笑い声を上げると、漸く追い付いたレベッカが空気も読まずにトントンと愛斗の肩を叩いた。

「helpが必要?」
「要らねーよ。空気読め」

崩していた顔を戻し、愛斗はレベッカを冷たくあしらう。解放してもらうべく恵介の腕を叩いて「ギブです」と告げると、「まだ足りない!」とばかりに更にギュッと締め付けられ、愛斗は苦笑いをするしかなかった。

「ホント、ギブですから」
「しゃぁないな。今日はこれで許したろ」
「絶対別の怨みも入ってるでしょ?」
「せや!俺の可愛いセナに傷跡付けやがって!今度したら別れさしたるからな!」
「わかってますよ。もうしません」

見えるところには。

と、言葉には出さずににっこりと笑うと、締め付けられていた頭が漸く解放された。
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