執着王子と聖なる姫
「やり過ぎました。すみません」

珍しく素直に謝る愛斗に驚きながら、恵介は尚も怒りが収まらぬ表情で言葉を続ける。

「今度やったら、ちーちゃんが怒る言うてたからな!」
「うわ…それは勘弁してください」

大人達同様、愛斗も…ついでに言えば親友の龍二も、千彩には弱い。千彩の名前は、男達にとって言わば「伝家の宝刀」だ。

それを知ってか知らずか、恵介は腕組みをしながらふんっと鼻を鳴らした。

「ほんで、可愛いセナはいつ返してくれんねん」
「今日帰りますよ」
「やっとか!はよセナのプニプニに触りたいわー」
「触らないでください。俺のなんで」

さすがに父親である晴人が聖奈に触れることを拒むことはできないけれど、恵介となればそれは叶う。何度言っても一向に聞き入れてくれない恵介に、愛斗は少なからず苛立ちを覚えていた。

「俺の言うな!セナは俺のや!」
「いや、違いますから。俺のです」
「くそっ…俺がどんだけ可愛がってセナを育てた思うてるんやっ!」
「ありがとうございます。いただきます」
「やらんわっ!」
「いや…いただきました?いただいてます、ですかね?」
「わー!」

サラリとそう言われ、悔しさのあまり恵介は地団駄を踏む。それを見て、愛斗は再び笑い声を洩らした。

いくつになっても少年。恵介にはそんな言葉がよく似合う。


そもそも、あのメーシーの息子に口で勝とうなど、恵介には出来るはずもない。晴人ならば可能だろうけれど。
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