執着王子と聖なる姫
教室に入ると視線が集まる。
それは日本に来てから毎日のことで、愛斗は既に諦めていた。


「…うぜ」 「…shit」


呟いた声が重なり、並んだ二人は思わず顔を見合わせた。

「お前もか」
「うん」
「ヤだな、日本人」
「マナはnon-Japaneseデスカー?」
「いや、俺はJapaneseだ。でも、去年までNYに住んでた」

視線を避けるように席に就くと、当然のように隣にレベッカが並ぶ。やめてくれ…と、愛斗は思わず身を引いた。

「何で俺の隣を選ぶ」
「嫌われ者同士仲良く!」
「お断りだね」

心底嫌そうに表情を歪める愛斗に、レベッカは少し首を傾げて「そうか!」とポンッと両手を合わせた。

「嫌よ嫌よも好きのうち」
「よくそんな日本語知ってんな」
「mamaがJapaneseデース」
「そうかよ」

なるべく深入りをしたくない愛斗は、普段のフェミニストぶりからは考えられないほど冷たくレベッカをあしらう。けれど、レベッカがそれに動じる様子はなかった。

「お前空気読める?」
「読める。でも読まないデース」
「は?」
「色々大変ナノデス」

そうか。自分の仮面と同じか。
突き放したいのに、何故だかそれをしてはいけないような気がして。

ギュッと締め付けられるような胸の奥に、愛斗は無意識に眉根を寄せていた。

「せっかくのbeautyが台無しデース」
「は?」
「どうしてmodel courseに行かなかったデスカー?」

覗き込まれ、愛斗は大きく視線を逸らす。チラリと横目で視線を戻すと、流れた前髪の隙間から褐色の瞳が見えていた。

「こんな容姿してんだ。晒し物はゴメンだ」
「デスネー」
「髪で隠すくらいならコンタクト嵌めろよ。うちの母親はそうしてる」
「mamaはnon-Japanese?」
「日本人。俺と同じ瞳だよ」

トントンと右目の下辺りを叩くと、レベッカの目が丸くなった。

「goddess?」
「んなわけねーだろ」

視線を合わせると、アイスブルーが愛斗を捕らえて離さない。どうにも逃げることが叶わなそうなそれに諦めてため息をつき、愛斗はとある作戦に出た。

「お前こそ、綺麗なのに勿体ない」
「よく言われマース」

ダメか…と、掬ったブロンドを離してどうしたものか…と頭を抱える愛斗。それを実に楽しそうに見つめるレベッカ。

押してダメなら引いてみろ。

それを応用して、引いてダメなら押してみたのだけれど、レベッカには全く通用しなかった。
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