執着王子と聖なる姫
それを見ながら、メーシーは「ふふふっ」といつものように控えめな笑い声を洩らす。

「だから言ったろ?」
「うっせーよ」
「何か言うたか?」
「いえ。すいません」

どうにも収まらない晴人は、愛斗が何か言う度に噛み付きそうな勢いだ。それを悟り、愛斗はメーシーにどう反論しようか思案した。

「麻理子が女神だって?」
「言ってないからな、俺は」
「素直じゃないなぁ」
「あれが女神!?悪魔の間違いやろ」
「wow!マナのmamaはDEVILデスカ?」
「ったく失礼しちゃうな。goddessで合ってるよ、レベッカ」

ここでもどこでも彼処でも…嫁バカ全開のメーシーは、レベッカににっこりと微笑みかけながら晴人の言葉を訂正する。それに異論を唱えたのは、当然訂正された側の晴人だ。

「メーシー…前から言おう思うてたんやけどな、おかしいで、自分」
「どうゆう意味だよ」
「いやいや、マリがgoddessて」
「どう見たってgoddessじゃないか。じゃなきゃangelだな」
「いやいやいやいやー」

あまりに晴人が勢い良く否定するものだから、ムッとしたメーシーはギュッと晴人の足を踏み付けた。

「いたっ!」
「あれ?sorry」
「sorryちゃうわ!」
「悪い。足が長くて」

キラリと光ったメーシーの目を、当然晴人と愛斗が見逃すはずがない。これ以上はマズイ…と、二人揃って口を噤む。

「楽しいdadyデスネ」
「そう捉らえるお前が凄いよ。俺コーヒー、ブラック。釣り要らねーわ」

このままでは埒が明かないと500円玉を放り投げた愛斗を、大人二人が興味深げに観察している。それを見事にキャッチしたレベッカは、「smartデスネ!」と言って軽快にヒールの音を響かせて自販機の前へと駆けて行った。

「マナ、あの子は?」

普段とは明らかに違った愛斗の様子に先に気付いたのは、言うまでもなく父親であるメーシーだった。悟られてはまずい…と視線を逸らすも、それによって、聖奈のことで頭がいっぱいだった晴人も違和感に気付くことになる。

やはりまだまだ青いのだ、愛斗は。
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