執着王子と聖なる姫
言ってしまった後に気付く。
無意識とは言え、とんでもない台詞が出た、と。

けれども、一度出てしまった言葉は引っ込めようがないというもので。らしくないと思いつつも、愛斗はレベッカから視線を逸らして苦笑いをするしかなかった。


好きだ。素直にそう思う。


自販機の前で会った二人のことも、何故NYで暮らしていたのかも、恋人のことも詮索してこない。ただ隣に居て、楽しげににこにこと笑っている。

それに抱く思いを好意と言わずして何と言おうか。

「マナ、鳴ってるデスヨー」
「おぉ」

鞄の中で震える携帯が、メールの到着を知らせていた。


―はるがマナをとっちめたって言ってましたけど、大丈夫ですか?
 学校が終わったので、カフェで待ってますね。


愛しい恋人からの自分の身を案じるメールに、罪悪感で胸が痛む愛斗。

キュッと唇を噛み、本当ならば晴人に承諾を得てから告げようと思っていたことを手早く打ち込んで送信した。


―俺が学校卒業したら、結婚しようか。


本当は今すぐにでもそうしたいのだけれど、やはり学生の身分ではそうもいかない。それを考え、晴人には「婚約させてくれ」と言うつもりだった。

「好き?steadyのこと」
「アイツは俺のonly oneだ」
「カワイソウなsteady」
「何でだよ」
「だってマナ…」

言いかけて、バイブレーションの音にレベッカは言葉を止めた。


―はるに何か言われたんですか?


悩んで出た言葉がそれか。と、愛斗は携帯を額に付けてガックリと項垂れる。

そして、改めて思う。空気が読めない女で良かった、と。


―もう噛むなって言われただけだ。
 卒業したら嫁に貰ってやる。
 今日ハルさんにその話するから。また後で詳しく話す。


パタリと携帯を閉じ、取り敢えず紙コップの中のコーヒーを飲み干してから、愛斗は改めてレベッカに視線を戻した。
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