執着王子と聖なる姫
「悪阻はどう?」
「今はまだ大丈夫や。セナん時も酷くなったんは10週過ぎてからやった」
「だったらそれまで様子見たら?同じように酷くなるようだったら、俺が姫を説得するよ」
「メーシー…頼んだで?うちのちーちゃん頼んだで?」
「誰がうちのや。この阿呆めが!」

もうすっかり千彩の兄貴気分の恵介は、涙目になってメーシーの手を握る。それにすかさずツッコんだのが、夫である晴人で。

相変わらずな二人のやり取りを見ながらメーシーは、「こりゃ結婚どころじゃないな…」と、決意を固めただろう息子を密かに哀れんだ。


「と言うわけやから、愛斗説得してくれんか?もうちょっと待てって」


逸れたはずの話を引き戻され、メーシーは視線を逸らしてうーんと唸った。

「どうだろう。納得するかな、あの執着boyが」
「それを何とかしてくれ言うとんや。誰もさせん言うとらん」
「この際さ、先に結婚さしちゃえば?その方が楽かもよ。そっちにマナ住ませて、姫の面倒色々みさせるって手もあるし」
「俺がおらん時は龍二が家におるから大丈夫や。それに…」

あの金髪女のことがある。と、晴人は静かに続けた。

「あれ、絶対食うぞ」
「んー…」
「否定せぇや、親父」
「ごめん、出来ないや」

アッサリとそう言ったメーシーに、晴人は「これは何かあったな」と悟る。けれど、悟るの「さ」の字も知らない鈍感の恵介は、ワナワナと震えて声を荒げた。

「あの子絶対愛斗のこと好きやで!」
「せやろな」
「ん、ごめん。二人共ちょっと待って。落ち着いて聞いてくれる?」

静かな声で前置きをし、メーシーは真っ直ぐに二人を見て愛斗の揺らぎを白状した。
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