執着王子と聖なる姫
「レベッカじゃなくて、マナが惹かれてるんだ。ごめん」


申し訳なさそうに眉尻を下げるメーシーに、「ごめんちゃうわっ!」と突っ掛かる恵介と、「ん?」と首を傾げる晴人。感情の表現方法は違えど、共に聖奈を愛して止まないことに変わりはない。

「オッドアイなんだよ、あの子。それに惹かれたっぽい。ほら、マナは気にしてないように装ってるけど、コンプレックスだからさ」
「それを言い訳にセナから乗り換えるつもりか?」
「勿論、そんなことはさせない」
「それで結婚させろって?そんな都合のええ話あるかい」
「手は打つよ。だから…」

どうか反対しないでやって。と、メーシーは深々と頭を下げた。

「不安なんだよ、マナ。セナちゃんがいないと、情緒不安定になる」
「うちの娘は精神安定剤とちゃうぞ」
「わかってる。わかってるんだけど、マナにはセナちゃんがいないとダメなんだ」
「メーシー…セナの傷…」

遠慮がちな恵介の指摘に、メーシーは一度大きく息を吐いて洗いざらい白状することを決めた。

「もう随分と前からなんだ。初めは至るところにキスマークが付いてた。それじゃ物足りなくなって、段々エスカレートしたんだと思う」
「危ない男やな、おたくの息子は」
「ごめん。俺も何度か注意してたんだけど、今回のは酷くて…」

独占欲、支配欲、あとは何だろうか…と、恵介とは違い冷静を保てている晴人は思案する。そして行き着いた先は、メーシーの言葉と同じだった。


「セナちゃんからの愛情を失うことが怖いんだと思う。だから必死に縛り付けようとしてる」


一度その絶望を味わいかけた晴人には、愛斗の気持ちがよくわかる。

千彩が生死の境をさ迷った時、世界が消えて無くなるとさえ思った。千彩から与えられたものが大きかっただけに、晴人は自分の世界の中心に千彩を据えていたのだ。


「条件…出さしてや」


水蒸気をふぅっと吐きながら、晴人は珍しく小さくなったメーシーに言う。それにゴクリと息を呑んだ恵介は、聖奈の第二の父親だ。

「子供は、聖奈が二十歳超えるまであかん。それも、ちゃんと事前に検査して大丈夫や言われてからや」
「王子…」
「晴人…」
「うちの娘は、誰に似たんかごっつ頑固やからな。好きにさしたったらええ」

それよりも!と、気分を変えたい晴人は、ビシッと恵介を指差してニカッと笑った。

「次も女やったら、太一の嫁に決定な。りんにも言うとけよ」
「へっ!?」
「千彩はそれで二人目欲しがってたんや。皆と家族になりたいんやとよ。まぁ、今更出来るなんか思うてなかったけどな」

はははっと笑う晴人に、メーシーはただ黙って俯いて涙を堪えた。
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