執着王子と聖なる姫
カフェで昼食を済ませて、三木家に向かった二人。
近くのケーキ屋で千彩の大好物のプリンを買い、二人共味方に引き込む気満々で挑む。

「あれ?」
「どした?」
「チェーンが掛かってません」

訝しげな表情をしながら、聖奈は玄関の扉を引く。アッサリと開いたそこからこっそりと中を覗き込み、二人はゴクリと息を呑んだ。

「いねーの?」
「はるはお仕事なので、それは無いと思いますけど…」

家の中で軟禁状態にある千彩は、自分の許可がなければ出掛けてはならないと晴人にキツく言い付けられている。素直な千彩がそれに反することは少なく、今日も今日とてそのはずだった。

「何かあったのか?」
「取り敢えず入りましょう」

慌ててリビングへと駆け込んだ二人は、千彩の姿が無いことを確認してそれぞれに冷たい汗が背中を伝った。


(ヤバい…ハルさんにバレたら大騒動だ!)
(…まさか迷子!?)


思いはそれぞれ違うけれど、二人共千彩の身を案じている。


そこへ、玄関の扉が開く音と共に、千彩の呑気な声が聞こえて来た。


「せなー?まなー?おかえりー?」


何故呑気にそんなことが言える!ハルさんだったらどうすんだ!と言いかけ、後ろに龍二の姿があることを確認して、愛斗は言葉を呑み込んだ。

「よぉ」
「おぉ」
「龍ちゃんとお出かけしてたんですか?言ってください。心配するので」

微妙な表情の子供達とは正反対に、千彩はにこにこと嬉しそうに笑っている。

まぁ…いいか。

千彩の笑顔を見ると、どこかそんな気分にさせられる。やはり「魔性疑惑」は拭えない。
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