執着王子と聖なる姫

晴人に呼び出されて慌てて駆け付けた龍二が見たものは、滅多に見れない三木夫妻の本気の夫婦喧嘩だった。それを思い出し、龍二はうぅんと呻く。

「大変だった。色々」
「その色々を俺は聞きてーんだけど」

勝手知ったる何とやら…で冷蔵庫の扉を開いてオレンジジュースを取り出した愛斗は、それをグラスに注ぎながらじっと龍二を見つめる。


「ちーちゃん！妊娠なんてダメですよ！はるの言うことをちゃんと聞いてください！何かあったらどうするんですか！」


聖奈の悲鳴にも似た声に、驚いた男二人の視線がソファへと同時に向く。それに気付いた聖奈が、ふぅっと一度深呼吸をして膨れっ面の千彩を諭すように語りかけた。

「ちーちゃん、出産ってゆうのは大変なんですよ？」
「わかってるよ？だってちさ、セナのママやもん」
「セナを産む時どうなりましたか？元気でしたか？」
「違うけど…」

口ごもる千彩と視線の高さを合わせ、何とか理解してもらおうと聖奈も必死だ。

「もし何かあったら、はるはどうするんですか？セナはずっとここには居ませんよ？」
「セナどっか行くん？どこに？」
「マナのところにお嫁に行くんです」
「いつ？すぐ？」
「それは…」

助けを求める聖奈の視線に、グラスを二つ持った愛斗がキッチンからゆっくりとソファへ向かう。コトンとテーブルにグラスを置き、聖奈と同じようにしゃがみ込んだ。

「俺が学校卒業したら、セナと結婚しようと思って。だから、ちーちゃんに何かあったら、ハルさん一人になっちゃうよ？」

愛斗の優しい声音に、千彩はメーシーの姿を思い出す。メーシーもよくこうして自分に語りかけてくれた。と、子供達の思いは完全無視で懐かしさに浸っていた。

「マナ、めーしーみたい」
「はぃ？」
「めーしーと一緒！」

ギュッと首に腕を絡ませられ、思わず慌てる愛斗。
けれど、ここに晴人が居ないことを思い出し、ふっと短く笑い声を洩らした。

「姫、いい子だから言うこと聞いて？」
「めーしーだ！めーしー！」

愛斗が頭を撫でながらメーシーを真似ると、千彩はそれに大喜びで。何て甘い！と、とうとう聖奈はガックリと項垂れた。

「マナ…そんなことしてると、はるに叱られますよ」
「黙ってりゃバレねーよ」

気持ち良さそうに頭を撫でられている千彩と、満足げな愛斗。二人に交互に視線をやりながら、聖奈はうーんと頭を悩ませた。