執着王子と聖なる姫
辛辣な愛斗が千彩にだけ甘いのはいつものことなのだけれど、普段は晴人が居るだけにこうして触れ合うことはまず無い。そんなことをしようものなら、愛斗に生傷が付くのは必死。

けれど、晴人が居ないとこうして触れ合う。それも、今日だけの話ではない。

本当はちーちゃんが好きなんじゃ…?と、聖奈の心中は複雑だ。

「けーちゃんやメーシーがセナに触ると怒るくせに」
「当たり前だろ」
「自分のことは思いっ切り棚に上げてますね」
「男はそんなもんです」

アッサリとそう言われ、すっかりご機嫌になった千彩に代わり、今度は聖奈が膨れっ面をした。

「自分の母親相手に妬くなよ」
「ちーちゃん、マナはセナのですからね!」
「んー?わかってるよ?変なセナ」

ウキウキとプリンの入った箱を開ける千彩に、キャラに似合わず聖奈は「くそっ…!」と心の中で悪態をつく。それに気付いた龍二が、「あーあ」とため息をつきながら愛斗を呼んだ。

「愛斗、コーヒーでいいか?」
「おぉ。そういやレイは?」
「仕事あるって、学校終わってすぐ行ったみてぇだわ」
「そっか」

夏休み中にモデルの仕事を始めた莉良は、マリ譲りの容姿と両親と愉快な仲間達のおかげで、瞬く間に仕事が急増した。キッズモデルしか無理なんじゃ…と思っていた愛斗は、改めて大人達の影響力の凄さを知る。

「すげーな、あの人達は」
「え?」
「レイなんかただのキッズモデルだろ?それをそこで留まらせねーんだから、何だかんだ言ってちゃんと仕事してんだな、あの人達も」
「まぁ、そうだろな」
「すげーわ。まぁ、主にメーシーとマリーが動いてんだろけど」
「お前のかーちゃんアクティブだからな」
「あの人もうとっくの昔に引退してんだけどな」

ダイニングテーブルを挟み向き合ってアイスコーヒーを飲む男二人と、未だソファで押し問答を続けている母娘。


三木家は表面上は今日も平和である。
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