執着王子と聖なる姫
「俺、セナがいなくなることが怖くて。離れてても、セナにはいつでも俺を想っててほしい」
「それで噛んだん?」
「傷跡を見れば、俺のことを思い出すでしょ。でも、あれはやり過ぎました。もうしません」

しゅんと頭を下げた愛斗に、何を思ったのか千彩はギュッと抱き着いた。そして、スリスリと頬を寄せる。


「マナ、らびゅー。ちさも噛んでいいよ?そしたらいつでもちさはマナと一緒」


頬にむにっと唇を寄せてにっこりと笑う千彩を、愛斗は初めて「愛おしい」と思った。

「そんなことしたら、俺、ハルさんに殺されます」
「あははー。はる怖いからねー」
「そうですよ。それに、もう噛まないって約束しましたから」
「そうなん?でも、大丈夫!ちさはいつだってマナらびゅーやし、セナだって、メーシーやマリちゃんだってそうやもん!だからマナは一人ぼっちじゃないよ」

ちゅっと口付けられビクンと体を跳ねさせる愛斗に、照れくさそうに千彩がはにかんだ。

「はるにはちゅーしたこと秘密ね?ちさがマナらびゅーやって証拠」
「いや…言えるわけないでしょ」

しどろもどろになる愛斗にもう一度ギュッと抱き着き、千彩は耳元で再び「マナ、らびゅー」と囁いた。

そんな二人の様子を扉の隙間から窺い見ながら、「あちゃー」と苦笑いをした人物が一人、ギリギリと奥歯を噛み締めている人物が二人、「やっぱり…」と不安を増長させた人物が一人。言わずと知れた3トップwith娘である。

そんなこととはつゆ知らず、嬉しそうに懐く千彩の長い髪を梳き、愛斗は束の間の幸せに浸っていた。
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