執着王子と聖なる姫
夜も更け、午前3時。
寝返りを打った愛斗が、違和感に重い瞼を開く。

「何やってんだ…コイツ」

右側には、ご無沙汰の莉良の感触があって。ギュッと抱き締めると、相変わらず色々と小さな馴染みの感覚が味わえた。

そっと頬を撫ぜてみると、確かに涙の感触がある。初めて見た両親のケンカに不安定になったのだろうか…と、愛斗は愛しい妹を更にギュッと抱き締めた。

「ん…まなぁ」
「何だよ」
「まなぁ…まなぁ…」

寝言にしてはやけにはっきりと、けれども瞼は閉じたままで莉良は愛斗の名を呼ぶ。聖奈と出会うまでは、これが当たり前だった。莉良を腕に抱き、不安や不満、寂しさを遣り過ごす。そうすることで安定して、翌日もまた両親を好きでいられた。


「あの目は…さすがにキツイな」


向けられたマリの目を思い出し、愛斗は息苦しさに目を閉じた。嫌うわけでも、憎むわけでもない。ただただ哀れむような、そして何かから逃げるようなその目。

マリを好きでいるために、極力視線を合わせないようにしていた。そんな小さな努力が自分をどんどん追い詰めていたことなど、愛斗は知る由もない。

「俺…何で生まれて来たんだろ…」

こうして、時々弱音を吐きたくなる。それは致し方ないことかもしれない。そんな不安に襲われた時、愛斗は決まって聖奈を抱いた。千彩にも言った通り、「同じ」になれる瞬間がたまらなく好きだ。

けれど、体が離れてしまえば「同じ」ではなくなってしまう。心まで「同じ」にするには、同じものを持ち合わせていないと無理がある。ふとレベッカの瞳を思い出し、愛斗は携帯に手を伸ばした。
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