執着王子と聖なる姫
佐野家の朝は騒々しい。

マリが騒いでいたり、莉良が騒いでいたりと、女二人が起床した途端家の中の雰囲気がガラリと変わる。

今日も今日とてそれを痛感している愛斗は、さっさと朝食を済ませてソファで朝の情報番組を見ていた。

そこに現れたのが、三木一家だ。珍しく一家総出で、おまけに龍二までもを従えている。

「おはようございます」
「good morning.どした?」
「お引越です。ちーちゃんが早い方がいいって」
「…はぁ」

思わずため息が洩れた愛斗に、聖奈は不安げな眼差しを向けた。

「嫌でしたか?」
「ん?別にいいんじゃね」

どの道こうなるんだし。と、ソファに凭れたままの愛斗は、あっちやこっちやに忙しく動かされている龍二を横目に見ながら、ツンッと聖奈のスカートの裾を引いた。

「週末、レベッカが家に来る」
「え?」
「俺じゃねーよ。メーシーが呼んだ」
「そう…ですか」

俯く聖奈の手を取り、愛斗は静かに告白する。

「レベッカの目、俺と同じなんだ」
「目…ですか?」
「同じだと思った。コイツならわかり合えると思った」
「マナ…」

でもな?と続け、愛斗は立ち尽くす聖奈をソファに引き寄せ、制服越しの細い腰を抱く。

「レベッカじゃ、俺の足りないものは埋められない。お前じゃなきゃ無理」

深夜にレベッカに電話をして、愛斗は一つわかったことがある。

確かに、望む言葉は掛けてくれる。しかも、絶妙なタイミングで。けれども、自分はそれを望んでいたわけではない。

確かにレベッカとはわかり合えるかもしれない。同じになれるかもしれない。けれど、全て同じになってしまえば個人ではなくなってしまう。それはそれで、また何かが欠けてしまう。
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