執着王子と聖なる姫
俺の通う学校へは、あと二駅分電車に揺られなければならない。次々と学生達が降りてくる電車に無理やり乗り込み、適当な場所を確保する。ここ二週間でそれも慣れた。


「うぜー。満員電車超うぜー」


電車に乗るのは嫌いではない。けれど、「満員ではない」という条件付きだ。

ぎゅうぎゅうと押し込められ、そして各駅で押し出される。ところてんか、俺らは。そんなくだらないことを思っている時だった。目の前にセナがいることに気付いたのは。

「Lucky!」

小さくガッツポーズをし、そして気付く。目の前の異様な光景に。

「ちょっ!お前何してんだよ!」

声を上げると、セナの制服の中に滑り込んでいた手が慌てて引き抜かれた。睨み付けると、男は器用に人混みの中へと姿を眩ませた。

そりゃ恐ろしいだろうよ。俺の目は何と言っても片目だけ色が違うのだから。狭い日本の中では、異色中の異色だ。


「平気か?セナ」


顔を真っ赤にしてギュッと唇を噛み締めているセナが平気なはずもなく。仕方なく次の駅でところてんよろしく押し出されると、ホームの椅子に座らせてその前へと屈んだ。

「セナ?」

何度呼び掛けても返事は無い。諦めてふぅっと息を吐き、俺も隣に腰掛けて待つことにした。うん。これは完全に遅刻する。そんな確信を胸に。


「別に…気持ち良いものではない」


ボソリと呟かれた言葉に反応すると、ふにっと自分の両胸を掴みながらセナが問い掛けた。

「気持ち良くはない。でも皆する。どうしてでしょう?」
「は?」
「胸を揉むと何かいいことがありますか?あの日お兄ちゃんもしてたでしょ?」
「はぃ?」
「だから、こうして…」

押しつけられた手が、むにっと柔らかな感覚を確認した。これは…実に心地好い。やはり俺は妹の貧相な胸よりこっちの方が好きだ。

ではなくて。

「いやっ、お前何してんの!?」
「最初にセナが質問しました。答えてからです。どうしてですか?」
「いやいや、とりあえず放せって」

驚いた。何だこの生き物は。

誘うわけでもなく、ただじっと俺の目を真っ直ぐに見つめながら問う女。こんな女、やはり今まで出会ったことがない。
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