執着王子と聖なる姫
それほどに信頼し合う仲なのだけれど、二人はあくまで「friend」で。愛斗にそんな気が皆無だと言えば嘘になるけれど、対するレベッカにそんな気は更々無い。

これが二人の関係を保つための絶妙なバランスだったりもする。

「kitty、なんて?」
「昼メシ何がいいかって。何だっていいっつーんだよ。俺は今忙しいんだ」
「Oh…カワイソウなkitty」

肩を竦めたレベッカを見上げ、愛斗はふっと笑って言い返す。


「アイツは俺のものだからいーの」


何とも利己的な、見事なまでの俺様思考である。

千彩ならば膨れっ面もの、マリならば激怒もののそれも、聖奈は「ごめんなさい。お邪魔しました」と受け入れてしまう。それが愛斗の俺様思考を増長させてしまうのだけれど、当の本人はそれに全く困っている様子がないので、大人達は敢えて口を挟まずにいた。

まぁそれ以前に、いつでもどこでも嫁バカ全開のあの二人がそんなことを言うはずはないけれど。

それに、愛斗は口を挟まれるのを極端に嫌う節がある。怒らせたが最後、相当厄介なことになるのは大人達は皆経験済みなので、その地雷を避けているとも言える。


「オレサマdarlingは嫌われる」


けれども、その地雷を敢えて踏むのがレベッカという少女。愛斗に対して堂々と「俺様だ!」と言えるのは、おそらくこの少女だけだろう。

「わーかってるよ」
「婚約カイショーだ」
「気をつける」

視線を逸らし、愛斗は唇を尖らせる。

レベッカに対しては、どんなに深入りをされようが愛斗は怒らない。それどころか、注意としてこうして素直に聞き入れる。

大人達にしてみれば、レベッカ様々だ。こうして二人をセットにし、愛斗の歪みを矯正してほしいと願う気持ちもわかる。

「マナはcleverでキレーなのに、とっても性格が悪い。ザンネン」
「うるせーよ」

脱力して机に突っ伏した愛斗の柔らかな髪を撫で、レベッカは「so cute!」と笑う。

そんなことをされても怒らない。怒らないどころか、それを待っているのかもしれない。そう思わせるほど、愛斗はレベッカに心を許していた。

「今日はもうstop!違うオシゴトしてくだサーイ」
「はいはい」

オフホワイトの生地を差し出され、愛斗はため息をつきながらそれを受け取った。

「誰から?」
「ハルト」
「は?ハルさん?」

見た目通りに柔らかな手触りを確かめながら愛斗は、「薄い!」と文句を言ったアイスコーヒーをちゅぅっと吸い込む。

「これを俺にどうしろって?」
「チサのためにdesignしろって」
「思いっ切り私用じゃねーか」

ガックリと項垂れた愛斗は、ぷっくりとお腹が膨れ始めてきた千彩の姿を思い出して、ふっと表情を緩めた。
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