執着王子と聖なる姫
「愛斗、レベッカ、メシやぞー」


タイミング良く現れた晴人に、二人は苦笑いだ。

「おっ、メーシーもここおったんか。千彩とセナ来たからメシにしようや」
「マナ、お父さんの登場だよ」
「笑えねー冗談だな、おい」

表情を引きつらせる愛斗にメーシーはどこまでも意地悪く笑い、そんな二人に晴人は首を傾げた。

「お義父さん?何や、改まって」
「いや、そうじゃなくてね」
「は?」
「今マナと話してたんだ。王子と麻理子の昔話」
「おぉ。…はぁっ!?」

予想外の出来事に驚く晴人に、メーシーはふふふっと意地悪く笑って見せた。

口裏を合わせて誤魔化していたわけではないけれど、その話は今まで誰も当事者の前以外では口にしなかった。暗黙の了解というやつである。

察しが良い愛斗あたりがいつか気付くだろうとは晴人も思っていたけれど、それにしてもこんな場所でする話ではない。相変わらず理解不能な親子だ…と呆れ気味の晴人は、ため息をつく代わりにガシガシと頭を掻いた。

「王子がマナのホントの父親だって言ったらどうする?」
「は?そりゃないわ。あいつあの頃ピル飲んでたし、それに俺も中では…」
「いや、詳しく聞きたくないっす、ハルさん」
「…やな」

苦笑いをする愛斗に止められ、晴人は再びガシガシと頭を掻いてメーシーを睨み付けた。

けれど、それに怯むどころかメーシーの笑顔の色は更に濃くなる。それに何やら嫌な予感を感じる晴人と、「ん?」と首を傾げる愛斗。穏やかだったはずの空気が、見事に歪んだ。

「ヤダなー、王子。中を否定は出来ないはずだよ」
「いや、そこ?」
「ひとの女に手出しといて挙句に中でとか…鬼畜にもほどがあるよね、昔の王子は」
「いやいや、誘ってきたんはおたくの嫁さん。俺は脱いでくれとは口説いたけど、ヤらせてくれとは言うてないで」
「脱いだらヤっちゃうんだから、結局同じだろ?」
「いや、待って。そもそも俺、マリがメーシーの女やって知らんかったし。知ってたら手ぇ出さへんわ」

んな恐ろしいことするか!と付け加えた晴人に、愛斗は大きく頷く。そして、珍しくギャーギャーと言い争う二人の間に立ち、まぁまぁと手を広げてそれを制した。

「二人共わかってます?俺、マリの息子」
「ん?わかってるよ。俺と麻理子の愛の証」

ゆるりと目を細め、メーシーは愛斗の頭をふわりと撫ぜる。

それを見ながら心穏やかでないのは、20年近く経ってから突如昔の非を責められることになった晴人だ。
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