執着王子と聖なる姫
「で?何だって?」
「気になったので、友達に聞いてみました」
「はぁ…」
「そしたら、「気持ち良いからだよ」って言ってました」
「で?」
「セナには気持ち良さがわかりませんでした」
「ほぉ…」
「たまたま痴漢に遭ったから、チャンスだと思ったのに。残念です」
「お前がな!」

俺の全力のツッコミに、目を丸くするセナ。ゴホンと咳払いを一つして、少し斜めにズレたリボンを直してやる。

「あのな?」
「はい」
「俺とレイはただ遊んでただけで、そんな気は全く無いの。いつものことなわけ」
「そんな気?それはどんな気ですか?」
「え、お前天然?それともわざと?」
「はぃ?」

理解していないとみた。コテンと傾げられた首が、十二分にそれを物語っている。よいしょとそれを戻し、軽く顎を持ち上げる。黒目がちの猫目が、じっと俺を見つめている。ゴクリと唾を呑み込む音が自分でも聞こえた。

「kissされるよ?お前」
「誰に?」
「俺に」
「いつ?」
「今から。だから目、閉じて」

短い言葉のやり取りを終えると、セナはスッと瞼を閉じた。そっと唇に触れる。ビクンと肩が揺れたその瞬間、俺は悟った。

これはマズイかもしれない、と。

「セナ?」
「はい」
「お前まさかkissしたら子供が出来るとか…思ってないよな?」
「はぃ?赤ちゃんは結婚しないと出来ません」
「いや、それは…合ってるような間違ってるような…とりあえず目開けろよ」

パチリと開かれた双眸が、じっと俺を見つめる。キラキラと…そう、お菓子を前にした時の妹の目と同じくらいキラキラとした目が、じっと俺を見つめている。

「間違ってますか?でもはるはそう言ってました」
「いや…お前の父さんどんだけ純粋思考よ」

痛い。これはマズイ。

うちの両親もかなり痛い類の人達だけれど、その辺はまぁ…主に母が、しかもノリノリで教えてくれたため、俺も妹もちゃんとしたとは言い難いけれど、それなりの教育は受けて来た。妹はまだだけれど、おかげさまで俺は初体験も早くに済ませたし、男のルールとやらも父にしっかりと教え込まれた。
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