執着王子と聖なる姫
「はっ!抱けんなった言うて別れよか…みたいになってたくせに!」
「別れるなんて一言も言ってねーだろ!」
「残念!マリから聞きましたー」
「うっせーな!だいたい誰のせいでそうなったと思ってんだよ!」
「覗き見しとったんはそっち!」
「スタジオの隅使うとかどうかしてる!」
「あん時も誘ったんはマリや!」
「ところかまわずそうゆうことすんなっつってんだよ!」
「誘ったんはマリや言うてるやろ!マリに言えや!」

大人気なくギャーギャーと言い争うアラフィフに、愛斗は「くだらねー」とふぅっとため息をついてフルフルと首を振った。



興味本位で訊いたのは自分だけれど、誰もそこまで詳しく話してくれとは言っていない。母の浮気の詳細を聞く羽目になってしまった愛斗は、二人の言い争いを止めることを諦めてそっと両手で耳を塞いだ。そして、ふと何気なく扉の辺りに視線をやる。


「あ、ちーちゃん」


表情に「マズい…」と出てしまっている愛斗と、扉の間からひょこっと顔を覗かせて手を振っている千彩。その間をゆっくりと視線を往復させ、アラフィフ二人は休戦を余儀なくされた。

「ご飯だよー」
「千彩…今の聞いとった?」
「なにがー?」
「いや、何でもない。階段危ないから一緒に降りよか」

慌て駆け寄った晴人を見送りながら、愛斗はやれやれ…と肩を竦めた。そして、不満げに腕組みをしたままのメーシーの肩をポンッと叩く。

「昔のことだろ?」
「まぁね」
「それに…」


悪いのはマリだと思う。


そう言おうとして、悲しげなメーシーの表情に愛斗は言葉を呑み込んだ。

「俺はメーシーの息子だから、メーシー派だな」
「王子はセナちゃんの父親だよ?」

メーシーとて、愛斗が自分を気遣っていることはわかっている。わからないほどバカではないつもりでいる。

「でもやっぱ、メーシー派だな。俺、マリーの子だし」

そんな可愛いことを言ってくれる息子を、心底愛おしいと思う。

そして、思うだけではなく、この男はそれをスキンシップとして言葉と体で表現する。愛斗にしてみれば、迷惑極まりない。

「いい子だ。愛してるよ、愛斗」

そう言って18にもなって父に抱き締められた息子は、やれやれ…と嫌そうな顔をして父を抱き締め返した。
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