執着王子と聖なる姫
ひとしきり愛を伝えあった痛い親子が二階へ降りると、そこは何故か戦場と化していて。今度は何が始まった…と、愛斗は鈍い頭痛を感じざるを得なかった。

「どうゆうことですか?説明してください」
「いや、あの…」
「あのじゃわかりませんよ?セナには説明出来ないことなんですか?」

声こそ荒げていないものの、聖奈の目は完全に据わってしまっていて。そんな目で見据えるものだから、晴人は「いやー」だの「あー」だの、言葉にならない声でどうにか逃がれようと頑張っていた。

けれど、愛斗に負けず劣らず「執着娘」の聖奈がそれを許すはずはない。特に相手が晴人の場合、聖奈は容赦しない。


「セナをちーちゃんみたいなおバカさんだと思ったら大間違いですよ、はる」


娘にそんな暴言を吐かれても、千彩はきょとんと首を傾げていて。そんなよくわからない状況を理解しようと、メーシーは千彩を、愛斗は買い物袋を提げたまま「kitty落ち着くデース」と宥めようとしているレベッカの腕をそっと引いた。

「どうしたの?姫」
「あのねー、さっきセナも一緒に上に行ってて、降りてきたらセナが怒ってた」
「あちゃー…聞かれちゃってたか」
「何でセナ怒ってるん?悪い話してたん?」
「んー…どうだろ」

まさか千彩に事の詳細を説明してしまうわけにはいかず、メーシーは「困ったなぁ…」と苦笑いで千彩の頭をそっと撫でた。

今まで話さなかったのは、千彩のためなのだ。千彩に悲しい思いはさせたくない。言わずとも、皆の意見は同じだった。

あのマリでさえ、その事に関しては口をつぐんでいたというのに。

「姫、一緒に上に行こうか。お腹のbabyがびっくりしちゃう」
「でも、はるとセナが…」
「大丈夫だよ。後はマナに任せて」

思いもよらぬ言葉に、愛斗は慌ててメーシーの腕を取った。

「待て、オヤジ」
「あっ!オヤジだなんて乱暴な!行こう、姫」
「待て待て待て待て!」
「マナ、落ち着くデース」

今にもメーシーに掴み掛からんばかりの愛斗の両肩を抑え、長身のレベッカはひょいっと顔を覗かせた。

「あっ、結構長身なんだね、レベッカ」
「7センチのヒールを履いてマース。興味持ったデスカ?」
「ひっ付くなよ、セナ来てんだから」
「冷たいデスネー。お財布返しときマース」

ぴたりと愛斗の背中にくっ付いたままのレベッカは、にこにこと笑っていて。それを見上げながら、千彩はぷっくりと膨れ始めたお腹をよしよしと撫でて首を傾げた。

「マナ、浮気?」
「え?違うって、ちーちゃん」
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