執着王子と聖なる姫
詰め寄る千彩と聖奈越しに見たメーシーとレベッカのやり取りに、漸く硬直から解放された愛斗は大きなため息をついた。

メーシーのことだから、自分が見ていることがわかっていてそんな行動を起こした。それに気付いているだけに、「いい加減にしろ!」と叫び出したくなる。

「マナが浮気!」
「どうゆうことですか?説明してください」
「マナとレベッカがちゅーした!」
「ホントなんですか?マナ!」
「ホンマ!ちさ見たもん!」
「もう!ちーちゃんは黙っててください!セナはマナに訊いてるんです!」

ピシャリとそう言われ、千彩はしゅんと肩を落として眉尻を下げる。それを見た晴人が、そっと歩み寄って肩を抱いた。

「しんどないか?座ろか」
「うーん」
「どないした?」

やさしく語りかける晴人に、愛斗は「どないした?じゃねーよ!」と心の中でツッコむ。決して口には出さないけれど、心中はもはや大嵐だ。


「ったく…誰のせいだよ、誰の」


そう苦々しく呟くと、愛斗は「うー!」っと呻く聖奈の前髪をくしゃっと掻き上げてそこに唇を寄せた。

「ギャーギャー喚くな。ブスになんぞ」
「誤魔化さないでください!」
「誤魔化されとけ」
「もうっ!」

ガンッと足を踏みしめる聖奈の額をピンッと指先で弾き、愛斗は心底疲れたような表情でふぅっと大きく息を吐く。

「ブスな女は嫌いだ。腹減った。メシは?」
「あっ…うぅ…どうぞ」
「サンキュ」

これぞ愛斗!と言わんばかりの態度に、男二人は目を瞠る。

嫌いと言われてしまえば、「ブス」になるわけにはいかない。ぐぐっと堪え、聖奈はランチボックスを愛斗の前に広げた。

「ん?ただの…ハムサンド?」
「カツサンドにしようと思ったんですけど、揚げてる途中でちーちゃんが気分が悪いって言ったので」
「なら仕方ねーな。おい、ベッキー」
「何デスカー?」

メーシーの隣で嬉しそうにしているレベッカを呼び、愛斗はクイッと顎で持って降りて机に置きっぱなしにしていた財布を指した。

「足りねーわ。いつもの」
「OK!行ってきマース」
「ついでに好きなもん買って来い」
「相変わらず太っ腹デスネー」

愛斗の財布を片手に出て行こうとするレベッカを見ながら、聖奈はグッと唇を噛んで悔しげに俯く。
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