執着王子と聖なる姫
愛斗の言う「いつもの」が、聖奈には思い当たらない。けれど、レベッカにはわかる。妻になるのは自分だというのに。

本人が気付かぬうちに嫉妬で歪んだ聖奈の顔を見上げ、愛斗は眉根を寄せて食べかけのハムサンドを聖奈の口に押し付けた。

「ブスは嫌いだっつってんだろ」
「…ごめんなさい」

しゅんと落ちた聖奈の肩にポンッと手を乗せたのは、「さすがに可哀相だろ…」と思ってしまったメーシーで。それに顔を上げて縋るような目をした聖奈に、愛斗はチッと舌打ちをした。

「触んな。それは俺のだ」
「ったく…セナちゃんは物じゃないよ?」
「うっせー。誰のせいでこうなったと思ってんだよ」
「悪い口だ。誰に似たんだよ、ったく」

ヨシヨシとセナの頭を撫でるメーシーの手を立ち上がって払い除け、愛斗は新しいハムサンドを聖奈の口にムギュッと押し込んだ。

「座って食え」
「はひ」

自分が突っ込んだくせに…と思うけれど、それをツッコむことは許されない。

諦めて椅子に腰掛ける聖奈を見て、メーシーは心底哀れだと思う。こんな男に捕まったばっかりに…と、再び手を伸ばしかけ、鋭い視線にそれを制された。

「触るな」
「わかってるよ」

これは完全に麻理子似だ。と、一人で納得したメーシーから視線を逸らし、愛斗はハムサンドを頬張る聖奈に不機嫌そうな視線を向けた。

「お前さ、ギャーギャーうるせーよ?」
「はっへ!」
「食ってから喋れー?」

何回言わせんだ。とため息混じりに言いながら、愛斗はカラカラと椅子を引いて聖奈の正面に置き、そこに腕組みをしながら腰掛けた。そして、ゆっくりと長い足を交差させる。

「俺さ、ブスとうるせー女、大嫌いなんだよ」
「…ごめんなさい」
「次、ねぇからな?」
「はい」

聖奈が頷いたことを確認して立ち上がると、愛斗は「あと…」と言葉を続けた。

「メシ、もう持って来なくていいから」
「えっ?」

聖奈に向けたはずの言葉に先に反応したのは千彩で。それに苦笑いをしながら、愛斗は言葉の向かう先を変え、心の刺を収めた。
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