執着王子と聖なる姫
「ちーちゃん、あのさ。俺もレベッカも、ハルさんもメーシーも、あと…今は出てるけどケイさんも、皆ここで仕事してるから」
「知ってるよ?」
「知ってるなら、邪魔しちゃダメ。マリーはそれわかってるから来ないんだよ」
「そうなん?」
「そう。だから、寂しいだろうけど家に居てくんないかな?朝出る時にセナそっちに行かせるようにするし」

愛斗の言葉に少し考え、千彩はにっこりと笑う。

「うん。わかった」
「ありがと。ってことだからもう帰れ。話なら帰ってからゆっくり聞いてやる」
「…はい」

これは本気で怒っていると判断した聖奈は、アッサリと引いてランチボックスを片付け始めた。その姿を、心配げに大人三人が見つめている。

そんな時、愛斗のズボンのポケットに入っていた携帯が着信を告げた。

「Hello.ん?おせーよ。てか、そこで待ってろ。食いに出る」

用件だけを告げて電話を切った愛斗は、「出てきます」とだけ告げてその場を去った。



パタンと扉の閉まった事務所の空気は、びっくりするくらいに重い。

事の発端が自分達の言い争いなだけに、晴人もメーシーも聖奈に申し訳なくて。ギュッと唇を噛んで耐える聖奈の肩を抱き、優しく頭を撫でながらメーシーは言った。

「ごめんね、セナちゃん。セナちゃん達が来る前に、俺達がちょっとマナのこと怒らせちゃったんだ。ね?王子」

合わせろよ?と言わんばかりの威圧的な目に、晴人は「おぉ」と軽く返事をし、立ち上がって同じように聖奈の頭を撫でた。

「結婚、やめるか?」

今までよく口を挟まなかったな…と思いながら、メーシーは普段よりも幾分か静かな事務所内を見渡した。

恵介がいなければ、晴人は比較的二人のことに口を挟まない。世の中はよく出来ている。と、改めて思う。

「…嫌です」
「ほな、家帰って来るか?」
「それも嫌です。セナは自分で決めたんです。だからずっとマナの傍に居るんです」

力強く見上げる聖奈の目に、晴人はククッと笑ってその小さな体をメーシーの腕の中から奪い取った。

「ほんまお前は千彩そっくりやな。頑張れ、娘」
「はるの浮気の話…帰ったらマナに聞きます」
「ええよー。俺、浮気なんかしたことないし」
「でも…」
「付き合ってたんは、千彩と付き合うより一年くらい前の話。浮気してたんはあっち」

晴人の言葉に思わず反論しかけたメーシーだけれど、やはり千彩がいる手前それを呑み込むしかなくて。何とかメーシーが呑み込むことで、その場は静かに事を納めることが叶った。
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