執着王子と聖なる姫
見つめ合うメーシーとレベッカは、知らない人から見ればさぞ絵になることだろう。と、どこか他人事のように思いながら、愛斗は二人を見つめていた。

「ダメ?」
「そんな可愛い顔して言われて、ダメって言える男がいると思う?」
「思う」
「どこに?紹介してよ」

メーシーの言葉にレベッカは振り返り、「早くしろよ」と言わんばかりに不満げにしている愛斗の鼻先をツンッと指した。

「ここ」
「あちゃー。いたね。その子相当歪んでるから注意した方がいいよ?噛み付かれるかも」
「今調教中なの」
「何の調教だ」

ガブリとレベッカの指に噛み付き、猛獣が牙を向く。そんな愛斗の喉元を飼育員よろしく撫でながら、レベッカは愛斗の口の端に付いたカレーを指先で拭い、ペロリと舐めた。

「待てが出来ない悪い子ちゃん。先に帰っていいよ?」
「奢ってもらうくせによく言うよ」

立ち上がって伝票を手にしたものの、どうにも腑に落ちなくて。そっとその伝票を志保に返すと、それを察した志保がメーシーの前へとそれを差出した。

「口止め料ね」
「安い口止め料だな」
「欲しい生地あんだけど」
「私も欲しい化粧品があるの」
「どーぞ。ったく、誰に似たんだよ」

間違いなくアンタだよ!とツッコむべきなのか、はたまた堪えるべきなのか。
後者だと判断した愛斗は、後ろ手に手を振りながら恨み言を残す。

「誰かさん達のせいで、帰ってから嫁のご機嫌取りが大変なんだよ」
「服でも作ってあげれば?」
「抱いた方が早い。邪魔すんなよ?」
「無茶させるなよ?」
「わーかってるよ」

後はご勝手にー。と去って行く愛斗は、後ろ姿でもわかるくらいにご機嫌で。これは楽しんでるな。と、残された三人は口に出さずとも思いは同じだった。
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