執着王子と聖なる姫
それとはまた違った意味の痛さを、コイツの両親から感じるのは何故だろう。

いや、問うまでもなく、目の前でキョロキョロと視線を彷徨わせるコイツのせいだ。間違い無く。

「キスは、大好きな人同士がするってちーちゃんが言ってました」

嗚呼、これはマズイ。ごめんなさい、ハルさん。俺は父の言うところの「王子の夢と希望の芽」とやらを、今まさに摘み取ろうとしています。

「大好きな人とすると気持ち良いって言ってました」
「へぇ…」
「気持ち良かったですか?」
「さぁ…どうだろ。お前は?」
「うーん…よくわかりません」
「だろうよ」

だからもう一回。と、ぷにっと唇が押し付けられる。今度はじっと俺の目を見つめたまま。

「…苦しい」
「そりゃ息止めてたら苦しいだろうよ」
「ここも苦しい」

ふにっと再び胸を掴まされる。これは不可抗力だ。

「お前ね、無防備にそうゆうことするもんじゃないよ?ハルさんが知ったら悲しむよ?」
「そうゆうこと?どうゆうことですか?」
「こうゆうこと」

今度は意図的にふにっと掴んでやる。すると、ビクンと再び肩が揺れた。あぁ、これは面白い。こうゆうのもいいかもしれない。

ふぅっと切なそうな吐息が聞こえ、潤んだ瞳に気付く。佐野愛斗、17歳。少し危険な道が拓けただろう瞬間。

「気持ち良い?」
「…さて。わかりません」
「嘘吐くなって」

再び唇を重ねようとして気付く、ここは通学途中の駅のホームだった、と。幸い学生のラッシュは過ぎ人も少なくなっていたが、それでも目立つものは目立つのだ。こんな俺の容姿と、こんなセナの容姿では。

「学校…行くか」
「あ…学校はもう行けませんよ?一度家へ帰って事情を説明しなければ」
「は?」
「うちは厳しいので、遅刻すると親が同行しなければ学校に入れてもらえません」

何てことだ。さすが進学校だけある。呆然とする俺に、セナはにっこりと微笑む。

「家に戻りましょう。ちーちゃんとマリちゃんに事情を説明しなければ」
「事情って…まさか…」
「今あったこと全部です」
「はい。ですよね。でも、ちょっと待った!」

これはとんでもなく厄介なことになる。そんなことは、容易く想像出来る。
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