執着王子と聖なる姫
デザインを描き上げて愛斗が二階へ降りると、3トップが勢揃いしていて。嫌な予感がする…と思いながら、晴人に頼まれたデザインをそっと机の上に置いてその場を去ろうと背を向けた途端、声が掛かる。


「俺は悪くないと思わない?」


やはり、嫌な予感は見事に的中した。

聞こえていないフリをしてその場を去ろうと試みたのだけれど、残念なことにそれを許すメーシーではない。悪魔をナメてはいけない。

ガッシリと肩を掴まれ、愛斗は思わずチッと舌打ちをした。

「マナ?」
「…何だよ」
「悪いのは王子だよね?」
「いや…どうだろ」

睨み合う実父と義父…になる予定の人物に挟まれ、愛斗は苦笑いをするしかない。どちらの肩を持っても、良い結果には繋がらない。ここは中立を保つに限る。と、愛斗は曖昧な笑みを浮かべてメーシーの手を払った。

「俺にはわかんねーよ」
「君の意見は?」
「メーシーがいいと思ってんならいいだろうし、ダメだっつーんならとことんケンカすれば?俺は知らねー」

止められたついでに頼まれていたデザイン画を晴人に手渡し、愛斗は扉に手を掛ける。すると、今度はメーシーよりも少し大きい手が愛斗の肩を掴んだ。

「愛斗、さっきは悪かったな」
「いえ」
「やるわ。好きなもん買え」
「いや、いいっす。バイト代貰ってるんで」

晴人から差し出された一万円札を手で止め、愛斗は小さく首を振る。
このJAGで一人でデザインを任されるということは、それなりに給料も貰っているということだ。一般の専門学生が手にすることの出来ないような額のバイト代を、愛斗は受け取っている。

「ほな、口止め料や」
「何の?」
「色々」

何を止められることがあるのだろう…と思いながらも、晴人も聖奈と同じで、言い出したら聞かないことを愛斗は知っている。なので、わざとらしくニヤリと口角を上げてそれを受け取った。

「んじゃ、遠慮無く」
「おぉ」
「欲しがってたゲームでも買ってやります」
「その辺は…愛斗に任せる」

受け取った一万円札をポケットにしまいながら、「そうだ、ケイさん…」と、愛斗は出ようとするケイを呼び止めた。

「ん?」
「ちょっと仕入れてもらいたい生地があるんですけど」
「おぉ。どんなん?」
「こないだ言ってたインド綿なんですけど」
「あのごっつ高かったやつ?」
「はい。MEIJIさんが払ってくれるらしいんで、仕入れてもらっていいっすか?」
「え?メーシー?」

ニヤリと笑う愛斗にメーシーはふぅっとため息をつき、反応を窺い見ている恵介に頷いた。
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