執着王子と聖なる姫

 トラブルは重なって起こるもの

最寄り駅を降りてとぼとぼと歩く愛斗は、唇を噛んで耐えているメーシーの姿を思い出していた。

元はと言えば、自分が撒いた火種だ。メーシーが相手をするはずがない。そんな驕りもあった。

「ヤベーかも、マジで」
「レベッカとは別れてくださいね」
「付き合ってねーよ」

掛けられた声に無意識に返事をし、愛斗は慌てて振り返る。街灯の下に見えるのは、闇に決して溶けぬ紅だった。

「お前…いつから居た?」
「駅からずっとです」
「声…掛けろよ。ストーカーか」
「そうですね。マナのストーカーをすれば近付く女の人に文句が言えるので、それもいいかもしれませんね」

じっと見上げる瞳から逃げるために顔を背け、愛斗は事態をどう収拾しようか思案する。それがわかっている聖奈は、「ふっ」とらしからぬ笑い声を洩らしてスタスタと愛斗の前に歩み寄った。


「許すのは、最初で最後です。よく覚えておいてください」


パンッと勢いの良い音が鳴り、左頬に痛みが走る。突然の出来事に驚いた愛斗の思考は、この瞬間完全に停止した。

何をどこまで知っているのか、聖奈がそれ以上を語らないだけに愛斗にはわからない。けれど、それを許してもらえるのだということだけはわかった。

「謝んねーよ?俺は」
「謝るならもう一発いきます。今度はこれで」

グッと拳を握る聖奈の瞳は、明らかに本気の拒絶を示していて。優しさが人を傷付けることもあると「最強の女性」に語られたばかりの愛斗は、素直にそれを守った。

「心配すんな。俺のonly oneはお前だ」
「当然です」
「言うようになったねー、お前も」

ポスッと預けられた体を抱き締め、愛斗は改めて思う。帰る場所が、待っていてくれる人がいるからこそ好き勝手に出来るのだ、と。
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