執着王子と聖なる姫
二人が家へ戻ると、不思議な光景がリビングに広がっていた。


ちょこんとソファに座って両手を腰に当てる妊婦と、その眼下に正座する三人のアラフィフ。

「何だ…これ」

思わず洩らした愛斗に、「そうでした!」と聖奈が一拍ポンッと手を叩いた。

「ちーちゃんが怒ってます」
「何でまた」
「ほら、お昼の…あれです」

お昼のあれ。

確か、昼間に激怒していたのは聖奈だったはずなのに…と、愛斗は聖奈と大人達の間でゆっくりと視線を往復させた。

「みんなでちさに嘘ついた!」
「いやいや、千彩。嘘ついたんちゃうで?黙ってただけや」
「あっ、そっか。ん?それでもダメ!」

宥められかけた千彩の頬が、再びぶぅっと膨れる。

一度こうなると、千彩は納得するまでとことん問い詰める。そっくり親子だよ。と、愛斗は言葉にせず聖奈を見つめた。

「何ですか?」
「お前もあんなだよ」
「うっ…気をつけます」
「まっ、俺は平気だからいいけど」

くしゃりと聖奈の頭を撫で、愛斗は静かに移動をかける。スッと千彩の後ろに立ち、腰を屈めて膨れっ面の横にひょこっと顔を覗かせた。

「わっ!?びっくりしたー」
「ただいま、ちーちゃん」

至近距離でにっこりと微笑む愛斗は、それはそれはうっとりするほどに美しくて。思わず見惚れる千彩の頭を撫で、愛斗はよいしょと背もたれを跨いで千彩の隣に腰掛けた。

「何怒ってんの?babyがびっくりするよ」
「だって!みんながちさに嘘ついてたんやもん!」
「いや、せやから嘘ちゃうって」
「ハルさん、ちょっと黙っててください」

長い足を優雅に組んだ愛斗に見下ろされ、晴人は内心舌打ちをしたくなった。
けれど、今この状況でこの場を収めることが出来るのは愛斗だけだ。
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