執着王子と聖なる姫
各自色々な思いを噛み殺し、美中年三人がじっと愛斗を見上げる。

「ちさ悪くないもん!」
「そだねー。ちーちゃんは悪くない」
「でしょ?ほらっ!マナもそう言ってる!」

怒りが収まらぬ千彩は、頬を膨らせたり両手をバタバタとさせたりと、何やら忙しそうで。そんな幼女さながらの母の姿を見つめながら、娘である聖奈はふぅっとため息をついた。

「ちーちゃん、もう許してあげたらどうですか?皆さんも悪気があったわけではないですし」
「ダメ!」
「うーん。じゃあどうするんです?はると離婚しますか?」

離婚という言葉に素早く反応したのは、もちろん絶賛正座で反省中の晴人だ。要らぬ知恵をっ!と思うのだけれど、半眼の愛斗にジトリと睨まれそれを言葉にすることは叶わなかった。

哀れ美中年三人は、ただただ黙って足の痺れに耐えるしか術が無い。

「りこん?」
「はるとお別れするってことです。セナはお嫁に行きますし、お別れしてお腹の赤ちゃんと一緒におにーさまのところに帰りますか?」
「なんで?そんなんイヤ!」

だったらどうしたいのだ!と、聖奈も段々と苛立ってくる。

それでなくとも、昼間の一件では自分も少なからず嫌な思いをしたのだ。せっかく自分達は上手く纏まったというのに、ここで揉められては自分も掘り返したくなる。

ピクピクと表情を引きつらせる聖奈を軽く片手を挙げて制し、愛斗は再び千彩の頭を撫でる。

「ちーちゃんは皆が黙ってたの怒ってるんだろ?」
「うん」
「もう皆話してくれたんじゃねーの?」
「うん。でも…」
「黙ってた罪は重いってか」

上手く言葉が紡げない千彩の変わりに、愛斗がトドメを刺す。被害者のはずなのに正座をさせられているメーシーは、「相変わらず容赦ないなー」と心の中でボヤキながら苦笑いだ。

「悲しかったんだよな?皆に秘密にされて」
「うん」
「自分だけ仲間外れにされた気がして」
「うん」

大きく頷いた拍子に、千彩の目から大粒の涙がポロポロと零れ落ちる。それを見届けて、愛斗はにっこりと微笑んだ。

それは、恋人である聖奈でさえ滅多に見ることの出来ない笑みで。それに嫉妬しながら、聖奈もじっと黙ってそのやり取りを見つめていた。
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