執着王子と聖なる姫
「約束守れよ?愛斗」
「約束?」
「ガキは…」
「ああ、それですか。わかってますよ」

軽く頷き、愛斗はメーシーに視線を移す。

「電化製品よろしくな、メーシー」
「来ると思ったよ」

他にも愛斗に色々と「黙っておいてもらわなければならないこと」があるメーシーは、ここで首を横に振ることが出来ない。ここは一気に清算を…と隣に座るマリにチラリと視線を向けた。

「いいかな?結構な出費になると思うけど」
「アタシは別に構わないわよ。部屋に戻れるならluckyだし。それに、アンタもマナには貸しがあるんでしょ?」
「え?」

固まったメーシーに、マリはふふっと笑って立ち上がり、足を摩りながら千彩の隣に腰かけた。

「princess、アタシのことも許してくれる?」
「うん!」
「良かった。これからもずっと仲良くしましょうね」
「うん!」

満面の笑みを見せる千彩のお腹をゆっくりと摩りながら、マリもホッとした表情で優しげに微笑む。

どこか「何とかなる」と思っていた男二人とは違い、マリは本気で怯えていたのだ。千彩という妹、そして友を失うことを。晴人のことは許しても、自分のことは許さないかもしれない。そう思っていただけに、宥めてくれた愛斗に本気で感謝をしている。

「ホント、男はダメね」
「え?いやいや、麻理子さん?」
「何よ、めいじ。アンタも色々問い詰められたいの?」
「いや、すいません」

あまりに自分勝手な言葉にツッコんだものの、それを言われてしまえばメーシーは黙るしかない。

よくよく考えれば、ストーカーの如く自分に執着するマリが気付かないはずはないのだ。レベッカのことはまだバレていないにせよ、志保のことは完全にバレている。それにも関らず黙っていたということは、優しさより何より、マリがとてつもない不安を抱えていたことを意味する。

それがわかるだけに、メーシーはグッと言葉を呑み込むしかなかった。

「麻理子、あの…さ」
「ん?」

愛斗と同じように長い足を優雅に組むマリの前に跪き、メーシーは褐色の瞳をゆらりと揺らせた。

「ごめんね」
「悪いと思うならしなきゃいいのに」
「ご尤もだ」

情けなく笑うメーシーにマリは手を伸ばし、そっと頬を撫ぜた。

「メーシーはいつだってアタシのワガママを聞いてくれたわ。だから、少しのことなら目を瞑る」

でも…と続け、マリはそのまま力一杯メーシーの頬を抓った。

「アタシから離れようなんて考えたら許さないんだから!」
「わかってる…よ」

こちらも上手くいったようだ。と、ソファからダイニングのベンチに移った愛斗はホッと一息つく。

さて、あとは何が起こるか。

大きな揉め事に発展しないことを祈りながら、愛斗は嬉しそうにじゃれ合う両親を見つめていた。
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