執着王子と聖なる姫

 純粋過ぎた恋心

翌日、早々に聖奈と共に物件を見て回っていた愛斗は、休憩がてらふらりと志保のカフェへと立ち寄った。

「あら、愛斗君」
「どうもっす」
「こんにちわ、志保さん」

顔を覗かせた聖奈を見て志保は「ふふっ」と軽く笑い、まるで昨日のことが無かったかのように素知らぬ顔をして二人にアイスコーヒーの入ったグラスを差し出した。

「今日はお仕事お休み?」
「はい。部屋見に行ってたんですよ」
「部屋?」
「バイトながらにいい給料貰ってるんで、二人で暮らそうかって。な?」
「はい」

愛斗の言葉に、志保は「ふぅん」と怪しげな笑みを見せた。

やはりそれに勘付いてしまうあたり、愛斗は立派に「メーシーの息子」なわけで。どう切り返そうか思案する愛斗に、志保はメニューを差し出しながらにっこりと笑った。

「昨日、帰ってモメたんだって?」
「え?」
「さっきまで、アキちゃんとヒマワリちゃんが来てたの」
「あぁ…」
「萎れちゃってね。可哀相だったなぁ、ヒマワリちゃん」

聞き慣れない呼び名に、聖奈が首を傾げる。
これはマズイのではないだろうか…と、読めない志保の思考に愛斗はグッと眉根を寄せた。

「聞いた?アキちゃんとヒマワリちゃんの話」
「いや、何も聞いてないっす」
「マナ、ヒマワリちゃんって誰ですか?」
「聖奈ちゃん知らない?レベッカちゃんってゆう金髪ガール」
「レベッカ!?」

どうもレベッカに対して良い印象を持っていない聖奈は、その名前を聞くだけで不機嫌に唇を尖らせて。ブスになるからやめろと再三言われているのだけれど、もう条件反射のようになってしまっていて、聖奈自身にもコントロールが利かなかった。

「レベッカもここに来るんですか?」
「あぁ、昨日連れて来たんだよ。ほら、昼メシ食いに出たろ?その時に」
「そう…ですか」

この店の存在は、マリにも知らされていないトップシークレット。そう思っていただけに、聖奈の不満は募るばかりだ。

「あれ?言っちゃマズかった?」
「わざとでしょ、志保さん」
「んー?何のことだろ」

口元に手を当てながら怪しげに笑う志保は、やはりそんな時のメーシーとよく似ていて。ふぅっと大きく息を吐くと、愛斗はふくれっ面の聖奈の頭を撫でた。
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