執着王子と聖なる姫
その頃、JAG青山事務所では…

「どないしたん?レベッカ」

描きかけのデザイン画を前に机に肘をつきながらぼんやりしているレベッカに、愛斗から頼まれていた生地を持って上がって来た恵介が心配げに声を掛けた。

「元気あらへんやん。何かあったんか?」
「どうもしないデスヨー」

一応返事はあるものの、やはりレベッカは心ここにあらずで。普段とはあまりにも違うその姿に、恵介は本気で心配になった。

「ほんま、どないしたん?」
「何でもないって言ったデース」

パッと顔を上げて両手を振ったレベッカの両目が、真っ赤に充血していた。いくら鈍感な恵介にでも、それが何を意味するかくらいはわかる。

「俺で良かったら話くらい聞くで?」
「大丈夫デスヨ。失恋しただけデース」
「失恋?レベッカ彼氏おったん?」

学校でも職場でも常に愛斗と行動を共にしているものだから、レベッカの彼氏の存在など考えたことがなかった。そんな恵介は、大袈裟に驚いて目を丸くさせている。

「彼氏じゃないデスヨ。片想いデス」
「片想い?もしかして、愛斗…とか?」
「違うデース」

大人達は、いつだって自分と愛斗の仲を疑っている。

それに気付いているからこそわざとべったり一緒にいて反応を面白がっていたのだけれど、傷心の今のレベッカにそれを楽しむ余裕は無い。

「Kei、少し独りにしてください」
「おっ…おぉ。ごめんな」
「ワタシこそ、sorryデス」

無理に笑おうとするレベッカに手を伸ばしかけて、恵介はギュッと右手で拳を握って耐えた。ここで手を伸ばしても、自分には何もしてはやれない。下手に手を出すよりは、そっとしておいてやる方が良いと判断したのだ。

「下おるから、帰る時声掛けてな」
「わかったデース」

ひらひらと手を振り、レベッカは再び描きかけのデザイン画へと視線を落とした。


そして、入れ違いに入って来る人物に俯いたままため息混じりに零す。
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