執着王子と聖なる姫
「嫁さんと出会うまでは、あのバカ夫婦に鬼畜やらcrazyやら言われるほどどうしようもない奴やったんや、俺」
「へぇ…意外」
「今からは想像つかんかもしれんけどな。よぉモテたし、女とっかえひっかえでそりゃええご身分やったで」

八重歯を見せてニカッと笑う晴人に釣られ、レベッカにも笑顔が戻ってくる。

それに気付いた晴人は、「しゃぁないなぁ…」と言わんばかりにレベッカのデスクに腰かけて話を続けた。


「あいつと知り合うて、俺の世界が変わった。あいつが俺の世界の全てになったんや」
「わかりますよ、その気持ち」
「そうか。メーシーも同じこと言うてたな」
「MEIJIも?」
「せや。何やったかなぁ…今まで見たこともない新しい世界、やったかな。マリはメーシーの初恋の女やったんやとよ」
「はつ…こい」

自分にとってメーシーがそうだったように、メーシーにとってマリは初恋の相手。その事実に、治まりかけていた胸の痛みがぶり返す。

「若いうちは遊んどいた方がええぞ」
「デスネー」
「お前美人やし、モテモテやろ」
「当然デス」

何とか俯くことをやめさせてやりたい。その一心で、晴人は言葉を続ける。

「うちの娘みたいに一切遊ばんと結婚したら、年いってからえらいことするかもしれんしな」
「んじゃ、ちーちゃんはそろそろ危ないってことですね」
「んなわけあるか!」

力一杯否定をしながら振り向いた晴人に、扉に背を預けたままの愛斗がニヤリと笑った。

「よぉ、ベッキー」
「hi」

軽く手を挙げ歩み寄って来た愛斗に、レベッカはとうとう笑い声を上げた。

「まったく…そっとしといてって言葉の意味を知らない人ばっかり」
「バーカ。皆知っててやってんだよ」
「ホント、お節介な人ばっかりデスネー」

情けなく眉尻を下げるレベッカに手を伸ばし、愛斗はわしゃわしゃと頭を撫でる。
それを横目に見ながら「もう大丈夫か…」とその場を去ろうとする晴人に、愛斗は脇に挟んでいた封筒を差し出した。

「ここがいいって言ってます」
「え?おぉ…」
「よろしくお願いします。お義父さん」
「くそっ…えらい出費や」
「あれ?離婚勧めた方が良かったですか?」
「…すみません、愛斗様」

急に小さくなった晴人にレベッカは更に笑い声を大きくし、いつもと変わらぬ笑顔を見せた。

「ハルト、Thank you」
「どういたしまして」
「セナ下にいますから、お願いします」
「へーへー。どうぞごゆっくり、お婿様」

これでもう大丈夫だ。と、晴人は静かに扉を閉めた。
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