執着王子と聖なる姫
晴れやかな気分で階段を下りた晴人が見たものは、どうにもこうにもどんよりと暗い空気を背負った恵介と、その様子に戸惑う娘の姿だった。
「よぉ、セナ」
「あっ、はる。けーちゃんがおかしいですよ」
「ん?恵介がおかしいのはせやな…俺と知り合うた頃からやから、今更心配することもないぞ」
「そうじゃなくて!」
「心配要らんて。それよりメーシーは?」
「そう言えば姿が見えませんね」
事務所内を見渡して見ても、目的の人物の姿は無い。
今日は出る予定など無いからきっとあそこだ。と、心配げに恵介を見つめている聖奈の肩にポンッと手を置き、晴人は笑った。
「そない心配なんやったら、その陰気な奴連れて家戻っとけ」
「家、ですか?」
「千彩の顔見たら元気になるわ。そいつ、究極の「ちーちゃんバカ」やから」
「…それもそうですね。行きましょう、けーちゃん」
促されるままに立ち上がり、恵介はじっと晴人を見つめた。
「心配すんな。あっちはうちのお婿様が何とかしよる」
「メーシーは?」
「俺に任せろ。お前が心配することは何も無い。大人しく「ちーちゃん」と遊んどけ」
シッシッと手を振られ、恵介は渋々頷く。
けれど、それに頷けないのが「うちのお婿様」の恋人である聖奈だ。
「マナは…レベッカと一緒ですか?」
「せや」
「…けーちゃん、セナはここに残るので、一人でちーちゃんのところへ行ってください」
「え?セナも一緒に行こうや」
その言葉にゆっくりと首を振る聖奈の頭を撫で、晴人は再びニカッと笑って見せる。
「心配すんな」
「でも…」
「これ、後で契約しに行ったるから。お前は帰って荷造りでもしとけ」
「…わかりました」
幼い頃から、晴人のこの笑顔に勝てた試しがない。
幸か不幸か、愛斗のおかげで「諦め」という実に都合の良い手段を覚えた聖奈は、今や滅多な事がない限り「どうしてですか?」と食い下がることはなくなっていた。
「さて…と。行きますか」
渋々ながら去って行く二人を見送り、晴人は誰に聞かせるわけでもない言葉を押し出した。そしてそのまま足を進めた先は、誰もいないはずのメイクルームのそのまた奥にある、メーシーくらいしか出入りしない資料室だった。
「よぉ、セナ」
「あっ、はる。けーちゃんがおかしいですよ」
「ん?恵介がおかしいのはせやな…俺と知り合うた頃からやから、今更心配することもないぞ」
「そうじゃなくて!」
「心配要らんて。それよりメーシーは?」
「そう言えば姿が見えませんね」
事務所内を見渡して見ても、目的の人物の姿は無い。
今日は出る予定など無いからきっとあそこだ。と、心配げに恵介を見つめている聖奈の肩にポンッと手を置き、晴人は笑った。
「そない心配なんやったら、その陰気な奴連れて家戻っとけ」
「家、ですか?」
「千彩の顔見たら元気になるわ。そいつ、究極の「ちーちゃんバカ」やから」
「…それもそうですね。行きましょう、けーちゃん」
促されるままに立ち上がり、恵介はじっと晴人を見つめた。
「心配すんな。あっちはうちのお婿様が何とかしよる」
「メーシーは?」
「俺に任せろ。お前が心配することは何も無い。大人しく「ちーちゃん」と遊んどけ」
シッシッと手を振られ、恵介は渋々頷く。
けれど、それに頷けないのが「うちのお婿様」の恋人である聖奈だ。
「マナは…レベッカと一緒ですか?」
「せや」
「…けーちゃん、セナはここに残るので、一人でちーちゃんのところへ行ってください」
「え?セナも一緒に行こうや」
その言葉にゆっくりと首を振る聖奈の頭を撫で、晴人は再びニカッと笑って見せる。
「心配すんな」
「でも…」
「これ、後で契約しに行ったるから。お前は帰って荷造りでもしとけ」
「…わかりました」
幼い頃から、晴人のこの笑顔に勝てた試しがない。
幸か不幸か、愛斗のおかげで「諦め」という実に都合の良い手段を覚えた聖奈は、今や滅多な事がない限り「どうしてですか?」と食い下がることはなくなっていた。
「さて…と。行きますか」
渋々ながら去って行く二人を見送り、晴人は誰に聞かせるわけでもない言葉を押し出した。そしてそのまま足を進めた先は、誰もいないはずのメイクルームのそのまた奥にある、メーシーくらいしか出入りしない資料室だった。