執着王子と聖なる姫
「やっぱここにおったか」
「…やぁ、王子。相変わらず勘が鋭いね」
「やろ?もっと褒めてくれてええで」

おどけて笑う晴人にふっと笑い声を洩らし、メーシーは広げていたファイルを差し出す。

「うわっ…めっちゃ綺麗なモデルやな、これ」
「だろ?うちの事務所のトップモデルだよ。元、だけど」
「ええなぁ。この女撮りたいわ」
「脱がせたいの間違いだろ?」

現役だった頃のマリは、それはそれは美しくて。そんなマリを「撮りたい!」「メイクをしたい!」とアプローチするアーティストは、事務所内外を問わず後を絶たなかった。

「俺好みやわ、このモデル。紹介してや」
「ダメだね。これ、俺の女だから」

あの頃は決して言えなかった言葉を口に出し、メーシーは満足げに笑った。

「悪かったよ、昨日」
「ん?」
「変に突っかかったりしてさ」
「せやで。おかげさまで大損害や」

ファイルを持ちながら両手を広げて肩を竦める晴人を鼻で笑い、メーシーはゆっくりと立ち上がって視線を合わせた。

「昨日の夜さ、麻理子にも散々言われたよ」
「やろ?何やかんや言うて、あいつもその気やったからな」
「その話じゃねーよ。姫のこと」
「千彩?」
「怒って嫌われてたらどうしてくれたんだ!って。そりゃもう凄い剣幕だったよ」

マリにとって千彩は、友であり、妹で。本気で怯えていただけに、事が解決した後のメーシーへの当りはそれはそれはキツイものだった。

「おかげで寝たの5時だよ」
「そんなに!?」
「まっ、それだけじゃねーけど」

ふぅっと息を吐き、メーシーは晴人の手からファイルを奪い返す。そして、そこに収められている現役時代のマリの写真を一撫でし、パタンとファイルを閉じた。
< 222 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop