執着王子と聖なる姫
その頃、3階のデザイナールームでは…


「そろそろ泣き止めよ、ベッキー」


晴人が去った途端に泣き崩れたレベッカを腕に抱き、愛斗は「やれやれ…」と優しく背中を擦り続けていた。

聖奈や千彩ならば宥めることは簡単だし、マリや莉良ならば暫く放っておけば良い。

けれど、相手はレベッカだ。しかも、この涙の理由は自分の父親だときた。愛斗にしてみれば、「やりやがったな、メーシー!」どころで済む騒ぎではない。

「だから言ったじゃねーか。無理だって」
「だって…好きだったんだもの」
「やめとけよ。あの人、ああ見えてもう50近いぞ」
「知ってる、そんなこと」

ブンブンと頭を振りながら、それでもレベッカの涙は止まる気配はなくて。

どうしたものか…と頭を悩ませる愛斗の元に、完全に気配も足音も絶った忍者みたいな救世主が現れた。

「よぉ。今取り込み中だけど」
「見ればわかるよ、そんなこと」
「おかげさまで大変なんだけど」
「変わるよ。おいで、レベッカ」

振り返ると同時に広げられた腕の中に飛び込むレベッカは、やはりメーシーへの想いを断ち切れないでいるままで。しっかりと背中に腕を回し、「離すものか!」と言わんばかりに力を込めた。

「苦しいよ、レベッカ。俺は王子と違ってデリケートなんだから」
「コラコラ。何で俺や、この嫌味男め」
「あれ?違った?」

おどけるメーシーを愛斗がジトリと睨みつける。

わかってるよ。とだけ返事をし、メーシーは自分の手で整えたブロンドをゆっくりと梳いた。
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